
バーチャルウォーター(仮想水)とは?日本が抱える水問題と解決策を簡単に解説
update: 2025.1.27
Contents
バーチャルウォーター(仮想水)とは?日本が抱える水問題と解決策を簡単に解説
世界中で「水不足」が深刻化するなか、私たちが普段口にする食品や製品に「見えない水」が大量に使われていることをご存じでしょうか?それが「バーチャルウォーター(仮想水)」です。バーチャルウォーターは、製品ができるまでに消費された水の量を表し、特に食料や衣類の輸入が多い日本は、海外の水資源に大きく依存しています。本記事では、バーチャルウォーターの仕組みと、水不足や環境への影響、私たちができる解決策について、ウォーターフットプリントの概念も交えながら解説します。水を「輸入」する現状を知り、持続可能な未来に向けた行動を一緒に考えてみましょう。
バーチャルウォーター(仮想水)とは?
バーチャルウォーター(仮想水)とは、食品や製品が生産される際に必要とされる「見えない水」のことを指します。
製品や食料の最終形には含まれていませんが、その生産過程で使用された水が、製品とともに間接的に消費されていると考えられます。たとえば、日本が輸入する穀物や肉類には、それらが生産された国で多量の水が使われています。この「見えない形で消費される水」が仮想水と呼ばれます。
バーチャルウォーターの概念は、1990年代にオランダの水文学者トニー・アランによって提唱されました。特に水不足に悩む国々がどのようにして水資源を「輸入」することで生活や経済を支えているかを理解するために導入された考え方です。
この概念により、国際的な貿易に伴う水の消費が可視化され、特に輸入に頼る国が他国の水資源にどれだけ依存しているかが明らかになりました。
バーチャルウォーターの測定方法

バーチャルウォーターは、ある製品や食材が生産されるまでに使用された「総水量」を計算することで測定されます。この総水量には、灌漑や洗浄、加工といったすべての過程で使用された水が含まれます。測定方法は以下のような手順で進められます。
- 生産に必要な水量の計算
作物や肉の生産では、まず原料の栽培や育成にどれだけの水が必要かを計算します。たとえば、小麦の生産には水やりや育成のための灌漑が必要ですし、牛肉には家畜の飲み水や飼料の栽培での水が含まれます。 - 加工・輸送に使われる水量の計算
原料が収穫された後、その加工や輸送にも水が使われる場合があります。たとえば、大豆から豆腐を作る場合には、豆の洗浄や製造過程で水が使用されます。 - データベースによる計算
FAO(国際連合食糧農業機関)やWater Footprint Networkといった団体が提供するデータベースをもとに、地域や製品ごとの生産量と水の使用量を組み合わせて計算します。これにより、地域の気候や生産方法に基づいた正確な水量が見積もられます。
これらの手順を通じて、各製品や食材がどれだけの水資源を消費しているかを「見えない水」として把握し、国際的な貿易や消費における水の流れを評価することが可能になります。
ウォーターフットプリントとバーチャルウォーターの違い
バーチャルウォーターは、食品や製品の生産に使われた「見えない水」の総量を指し、特に国際貿易における水の間接的な移動を評価します。輸入品に伴って他国の水資源をどれだけ消費しているかを把握するために使われます。
ウォーターフットプリントは、水の消費をより詳細に分けて評価する指標で、「青水(河川・地下水)」「緑水(雨水)」「灰水(汚染水)」の3種類で構成されます。環境への負荷や水質にも着目し、持続可能な水管理を目指すための指標です。
日本はバーチャルウォーター(仮想水)の輸入大国?

日本は、食品や製品を生産する過程で使われる「バーチャルウォーター(仮想水)」の輸入量が非常に多い国のひとつです。国内の食料生産では必要な水を賄いきれないため、穀物や肉類など多くの食料を海外から輸入しており、これに伴い他国で消費された水資源が「仮想的に輸入」される形となっています。
たとえば、1kgの牛肉を生産するには約15,000リットルの水が必要とされます。この量には、飼料の栽培や家畜の飼育に使われる水が含まれており、肉や乳製品などの輸入を通じて日本は他国の水資源を間接的に利用しています。特に、アメリカやオーストラリア、ブラジルなどからの輸入品が大きな割合を占め、輸入によるバーチャルウォーターの総量は、日本国内で消費される水量を大きく上回るとされています。
バーチャルウォーターの大量輸入にはリスクも伴います。輸入元の国で水不足や気候変動の影響が生じた場合、日本の食料供給や価格に影響が出る可能性があります。仮想水に依存することで、日本は他国の水資源に間接的に依存しているため、安定した水と食料の供給を維持するためには、国内の自給率向上や水資源の効率的な利用が求められています。
こうした背景から、バーチャルウォーターの輸入依存が続くことは、国際的な水資源の公平な利用や持続可能性に対する日本の課題でもあります。
身近な食べ物のバーチャルウォーター量

食べ物にはその生産過程で大量の水が使われており、バーチャルウォーターの量は食材ごとに大きく異なります。以下は、いくつかの身近な食材に含まれるバーチャルウォーター量の例です。
- 牛肉:1kgの牛肉を生産するには約15,000リットルの水が必要です。これは、飼料の栽培、飲み水、飼育環境での水消費が含まれるためです。
- 豚肉:1kgあたり約6,000リットルの水が必要とされています。牛肉ほどではありませんが、飼料の生産に多くの水が使われています。
- 鶏肉:1kgあたり約4,300リットルの水が必要です。他の肉類に比べると比較的少量の水で生産が可能ですが、飼料や飼育環境に水が必要です。
- 大豆:1kgの大豆を生産するには約2,100リットルの水が必要です。豆類は肉類に比べてバーチャルウォーター量が少なく、環境負荷も低めです。
- 小麦:1kgあたり約1,800リットルの水が使われています。パンや麺類の主原料である小麦も、水を多く使う穀物です。
- コーヒー:1杯(125ml)のコーヒーを作るためには約140リットルの水が必要です。コーヒー豆の栽培・加工過程で水が多く消費されるためです。
これらの食材に含まれるバーチャルウォーターの量は、食料の生産にどれだけ水が使われているかを示しており、私たちの食事選択が間接的に水資源に影響を与えていることを実感させます。
バーチャルウォーターからわかる水問題
バーチャルウォーターは、他国の水資源に間接的に依存する日本の状況や、輸出国での水問題を浮き彫りにします。
水不足
輸出国では、水資源が農業や工業で多く使われることで現地の水不足が進行しています。特にアメリカやオーストラリアの一部地域では、日本などの輸入依存によって水資源への負担が増し、供給リスクも高まっています。
水質汚染
大豆や穀物の生産で使用される化学肥料や農薬が、河川や地下水を汚染し、現地の生態系や住民の健康に悪影響を与えています。日本の需要がこうした汚染の間接的な原因ともなっています。
バーチャルウォーターの視点で見ると、私たちの消費が他国の水問題に影響を及ぼしていることが理解できます。
日本と世界のバーチャルウォーターの比較

日本はバーチャルウォーターの「輸入」に強く依存しており、世界の中でも「輸入大国」として知られています。特に、食料や製品の輸入を通じて他国の水資源を多く消費していることが特徴です。
日本と他国のバーチャルウォーター利用の違い
- アメリカやオーストラリア:これらの国は農業大国であり、バーチャルウォーターの「輸出国」です。自国での豊富な水資源を背景に、日本などの国に農産物や畜産物を輸出し、多くの水を他国へ「供給」しています。
- 欧州諸国:日本と同様、輸入依存度が高い国もありますが、ヨーロッパの一部の国々は国内での生産水準が比較的高く、バーチャルウォーターの輸入に対する依存度も日本ほどではありません。
世界と日本の水リスクの違い
日本のように輸入に依存する国は、輸出元での水不足や気候変動の影響を受けやすいリスクがあります。一方で、自国での水資源を賄っている国々では、バーチャルウォーター輸出に伴う水負荷が課題になっています。
このように、日本はバーチャルウォーターを「輸入」し、他国の水資源に依存する形で国内の消費を支えている点が、世界の他国と大きく異なる特徴です。
日本のバーチャルウォーター削減に向けた取り組み
日本では、国や企業がバーチャルウォーターの削減や水資源の効率的な利用に向けてさまざまな取り組みを進めています。ここでは、具体的な取り組みの一部を信頼できる出典とともにご紹介します。
国の取り組み
農業における節水技術の普及
農林水産省は、農業用水の効率的な利用を推進するため、節水灌漑技術や水管理システムの導入を進めています。たとえば、「精密灌漑システム」は水の使用量を抑えつつ、作物の成長に必要な水を適切に供給できる仕組みで、農業の水使用量を大幅に削減することができます。
国内生産の支援
日本政府は、食料自給率の向上を目指し、国内での食料生産を増やすことで、バーチャルウォーターの輸入依存度を下げる取り組みも行っています。「食料・農業・農村基本計画」では、地産地消や国内農業の生産性向上を支援し、輸入に依存しない食料供給体制の構築を目指しています。
企業の取り組み
味の素株式会社の水使用削減活動
食品メーカーの味の素は、自社工場における水使用量の削減に取り組んでいます。味の素は、2017年から2020年にかけて工場での水使用量を約10%削減し、循環利用や水質改善を行うことで環境負荷を減らしています。さらに、味の素は「グリーン水素」など再生可能エネルギーの活用も進め、水資源保護に寄与しています。
サントリーホールディングスの「水循環」プロジェクト
サントリーは、バーチャルウォーター削減の一環として「天然水の森」プロジェクトを実施しています。これは、製品製造で消費される水を自然の力で再生可能な形に戻すため、森林の保全と再生に力を入れたプロジェクトです。サントリーの活動により、森での水の涵養機能が向上し、長期的に水資源を守る取り組みとして評価されています。
バーチャルウォーターを減らすために私たちができること

バーチャルウォーターを削減し、持続可能な水資源利用に貢献するために、個人でも取り組めることがいくつかあります。以下のポイントを参考に、日常生活でできるアクションを考えてみましょう。
バーチャルウォーターを減らすために私たちができること
バーチャルウォーターを削減し、持続可能な水資源利用に貢献するために、個人でも取り組めることがいくつかあります。以下のポイントを参考に、日常生活でできるアクションを考えてみましょう。
1. 地産地消を心がける
輸入食品には生産過程で他国の水資源が使われています。地元で生産された食材を選ぶことで、輸入に伴うバーチャルウォーター消費を減らせます。また、フードマイレージも減少し、環境への負荷も軽減できます。
2. 食品ロスを減らす
食品が捨てられると、それを生産するために使われた水も無駄になります。必要な量だけ購入し、使い切ることを心がけましょう。特に肉や乳製品など水消費が大きい食材を無駄にしないことが大切です。
3. 植物性食品を増やす
肉類の生産には多くの水が使われるため、時々植物性の食材を選ぶことでバーチャルウォーターの消費を抑えられます。大豆や豆類、野菜を多く取り入れた食生活は、間接的な水資源保護にもつながります。
4. 節水を意識する
日常の水の使い方もバーチャルウォーター削減に貢献します。水を出しっぱなしにせず、シャワーや歯磨きなどでも節水を意識しましょう。
5. 持続可能な製品を選ぶ
水を効率よく利用しているサステナブルな企業の製品を選ぶことも、間接的に水資源の保護につながります。企業の取り組みや環境ラベルに注目し、意識的に選択することが大切です。
これらの行動を通して、私たち一人ひとりがバーチャルウォーターの削減に貢献でき、持続可能な水資源利用に近づくことができます。
まとめ
バーチャルウォーターの削減は、私たちが間接的に他国の水資源に依存している現状を見直し、持続可能な未来を目指すために重要です。私たちができる具体的な取り組みには、地元の食材を選ぶ「地産地消」や、食品ロスの削減、植物性食品を増やす食生活の工夫があります。また、日常生活での節水や、持続可能な製品を選ぶことも有効です。これらの小さな行動が積み重なることで、バーチャルウォーターの消費を抑え、地球全体の水資源保護に貢献することができます。
update: 2025.1.27