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スモーキーマウンテンとは?ゴミの山から見えるフィリピンの社会問題

update: 2025.1.11

スモーキーマウンテンとは?ゴミの山から見えるフィリピンの社会問題

 

フィリピンの首都マニラ。その北部に位置するトンド地区に、かつて「スモーキーマウンテン」と呼ばれる巨大なゴミの山がそびえ立っていました。

50年以上にわたり、マニラ市のゴミ処理場として機能し、最盛期には高さ40メートルにも達したこの場所は、貧困と環境問題の象徴として世界中の注目を集めました。腐敗するゴミから立ち上る煙がその名の由来となり、数千人もの人々がゴミ拾いで生計を立てる過酷な生活の舞台となっていました。本記事では、スモーキーマウンテンの歴史、社会的影響、そして閉鎖後の現状について詳しく解説していきます。

 

スモーキーマウンテンとは

スモーキーマウンテンの概要と位置

スモーキーマウンテンは、フィリピンの首都マニラにあった巨大なゴミ捨て場です。正確にはマニラ北部のトンド地区に位置し、1950年代から2000年代初頭まで存在していました。最盛期には高さ40メートル、面積約20ヘクタールに達する巨大なゴミの山でした。

 

名前の由来

名前の由来は、ゴミの腐敗や自然発火によって常に煙(スモーク)が立ち上っていたことから来ています。この煙は有毒ガスを含み、周辺地域の大気汚染の原因となっていました。スモーキーマウンテンは、フィリピンの貧困と環境問題を象徴する場所として国際的にも知られるようになりました。

スモーキーマウンテンの歴史

スモーキーマウンテンが形成された経緯

スモーキーマウンテンの形成は1950年代に遡ります。マニラの急速な都市化と人口増加に伴い、廃棄物処理の需要が急増しました。当時、適切な廃棃物管理システムがなかったため、トンド地区の空き地にゴミが投棄され始めました。

 

閉鎖までの流れ

時間の経過とともに、ゴミの山は巨大化し、1960年代には既に深刻な環境問題となっていました。1990年代に入ると、国際的な批判や環境への懸念が高まり、フィリピン政府は対策を迫られました。2000年、ジョセフ・エストラーダ大統領(当時)がスモーキーマウンテンの閉鎖を宣言。その後、段階的に閉鎖が進められ、2004年までに完全に閉鎖されました。

スモーキーマウンテンの環境問題

スモーキーマウンテンは、深刻な環境問題の温床でした。ゴミ山の実態は想像を絶するもので、生ゴミ、プラスチック、金属、有害廃棄物など、あらゆる種類のゴミが無秩序に積み重なっていました。雨季には崩壊の危険性も高く、周辺住民の生命を脅かしていました。

 

また、健康被害と環境汚染も深刻でした。ゴミの腐敗や燃焼により発生する有毒ガスは、呼吸器疾患や皮膚病の原因となりました。また、ゴミから染み出る有害物質は土壌や地下水を汚染し、周辺地域の生態系にも悪影響を及ぼしていました。

スモーキーマウンテンの住民たち

(画像はイメージです)

 

スモーキーマウンテンには、数千人のスカベンジャー(ゴミ拾い人)が生活していました。彼らは毎日、危険を顧みずゴミの中から再利用可能な物資を探し、それを売って生計を立てていました。多くは不法居住者で、ゴミ山の周辺に簡素な小屋を建てて暮らしていました。

 

この環境下での生活は極めて過酷で、貧困の実態を如実に表していました。衛生状態は劣悪で、清潔な水や適切な医療へのアクセスも限られていました。子どもたちも働かざるを得ず、教育を受ける機会が奪われていて、当時のスモーキーマウンテンの住民たちの生活は、フィリピンの貧困問題の縮図とも言えるものでした。

 

スモーキーマウンテン閉鎖後の状況

2004年の完全閉鎖後、スモーキーマウンテンの住民たちは大きな転換期を迎えました。政府は住民たちの移住計画を実施し、多くの人々が近隣に建設された公営住宅に移されました。しかし、この移住プロセスは様々な問題を伴いました。

 

住民の移住問題は複雑で、新しい住居は提供されたものの、生計手段を失った住民たちは新たな貧困に直面しました。ゴミ拾いで生計を立てていた人々にとって、突然の環境変化は深刻な経済的打撃となりました。また、コミュニティの分断や文化的なアイデンティティの喪失も大きな問題でした。

 

新たな課題としては、元住民たちの就業支援や技能訓練の必要性が挙げられます。また、移住先での差別や偏見との闘い、子どもたちの教育保障なども重要な課題となりました。閉鎖後も、非公式にゴミ拾いを続ける人々もおり、新たな環境問題や健康リスクも発生しています。

スモーキーマウンテンが与えた社会的影響

スモーキーマウンテンは、フィリピンの貧困と環境問題を象徴する存在として、国内外のメディアから大きな注目を集めました。多くのドキュメンタリー映画や写真集が制作され、世界中の人々にこの問題の深刻さを伝えました。例えば、1995年に発表されたスモーキーマウンテンの人々を描いた日本のドキュメンタリー映画『忘れられた子供たち スカベンジャー』は国際的な賞を受賞し、大きな反響を呼びました。

 

この問題への注目は、国際的な支援活動の契機ともなりました。多くのNGOや国際機関がスモーキーマウンテンの問題に取り組み、住民支援や環境改善のプロジェクトを実施しました。

 

こうした国際的な関心は、フィリピン政府に対しても大きなプレッシャーとなり、最終的にスモーキーマウンテンの閉鎖と再開発計画の実施につながりました。同時に、この問題は開発途上国における都市貧困と環境問題の典型例として、国際的な開発政策や環境政策の議論にも大きな影響を与えました。

 

スモーキーマウンテンから学ぶこと

(画像はイメージです)

 

スモーキーマウンテンの事例は、廃棄物管理の重要性を強く訴えかけています。適切な廃棄物処理システムの欠如が、いかに深刻な環境問題と社会問題を引き起こすかを如実に示しています。この教訓から、多くの開発途上国で廃棄物管理の改善が進められ、持続可能な都市開発の重要性が再認識されました。

 

例えば、フィリピンでは2001年に「エコロジカル固形廃棄物管理法」が制定され、廃棄物の分別収集やリサイクルの推進、適切な最終処分場の設置などが義務付けられました。これはスモーキーマウンテンの教訓が直接反映された政策と言えます。

 

また、スモーキーマウンテンの問題は、貧困問題への取り組みの重要性も浮き彫りにしました。単にゴミ山を閉鎖するだけでなく、そこで生活していた人々の生活再建や就業支援、教育機会の提供など、包括的なアプローチの必要性が認識されました。この経験は、都市貧困層に対する社会政策のあり方に大きな影響を与え、多くの国で類似の問題に取り組む際の参考とされています。

 

さらに、この問題は環境正義の観点からも重要な示唆を与えています。社会的弱者が環境リスクにさらされやすい構造的問題に光を当て、環境政策と社会政策の統合の必要性を訴えかけています。

 

現在のトンド地区の状況

スモーキーマウンテン閉鎖から約20年、トンド地区は大きく変貌しました。フィリピン国家住宅公社による再開発プロジェクトで、元ゴミ山は緑地公園や住宅地に生まれ変わりました。元スカベンジャーとその家族向けの中層集合住宅が建設され、職業訓練センターや起業支援施設も設置されています。

 

しかし、課題も残されています。根強い貧困問題が最も深刻で、多くの元住民は安定した職を得られず、非公式セクターでの低賃金労働に従事しています。教育や医療へのアクセス改善、土壌・地下水汚染の解決も急務です。また、再開発に伴うジェントリフィケーションにより、低所得者層が地域から追い出されるケースも報告されています。

 

トンド地区は大きな進展を見せつつも、貧困や環境問題など根本的な課題が残っており、真の解決には長期的かつ包括的な取り組みが必要とされています。

 

スモーキーマウンテンに類似する世界の事例

スモーキーマウンテンのような大規模ゴミ捨て場とそこでの貧困問題は、世界各地に存在します。主な事例として、以下が挙げられます:

 

  1. ジャルディン・グラマチョ(ブラジル・リオデジャネイロ):2012年に閉鎖。住民の再定住と職業訓練を実施。
  2. ダンドラ(ケニア・ナイロビ):現在も稼働中。約5,000人のスカベンジャーが生活。健康被害と環境汚染が深刻。
  3. パヤタス(フィリピン・ケソン市):2000年の崩落事故後、改善が進むも依然多くのスカベンジャーが生活。

 

これらの事例に共通するのは、急速な都市化と不適切な廃棄物管理が引き起こす環境問題と貧困の悪循環です。多くの国で閉鎖や改善の取り組みが行われていますが、完全な解決には至っていません。

 

世界各地のこれらの事例は、都市の貧困と環境問題の複雑な関係性を示し、持続可能な都市開発の重要性を訴えかけています。解決には、単なるゴミ捨て場の閉鎖だけでなく、住民の生活再建、新たな廃棄物管理システムの構築、教育や保健医療の改善など、長期的で包括的なアプローチが必要です。

 

まとめ:スモーキーマウンテンが問いかける社会問題

 

スモーキーマウンテンのような大規模ゴミ捨て場と貧困問題は世界各地に存在します。。これらは急速な都市化と不適切な廃棄物管理が引き起こす環境問題と貧困の悪循環を示しています。

 

多くの国で閉鎖や改善の取り組みが行われていますが、完全な解決には至っていません。これらの事例から、適切な廃棄物管理システムの重要性、貧困削減と環境保護の統合的アプローチの必要性、コミュニティ参加型解決策の有効性、長期的視点での都市計画と社会政策の必要性が教訓として挙げられます。

 

解決には、ゴミ捨て場の閉鎖だけでなく、住民の生活再建や新たな廃棄物管理システムの構築など、長期的で包括的なアプローチが必要です。

 

update: 2025.1.11