
私たちの生活に潜むデジタルデバイド(IT格差)とは?|「情報通信白書/総務省」から読み解く現状と解決策
update: 2026.2.18
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私たちの生活に潜むデジタルデバイド(IT格差)とは?|「情報通信白書/総務省」から読み解く現状と解決策
スマートフォンやインターネットが当たり前になった今、行政手続きや学習、就職活動、買い物、医療・防災情報まで、私たちの暮らしは急速にデジタルへ移行しています。便利になる一方で、「使える人」と「使えない人」の間に新たな格差も生まれています。
本記事では、デジタルデバイドの背景と具体的な社会問題を整理し、国内外の取り組みや自治体事例を通して、「誰一人取り残さない」社会に向けて私たちにできることを考えます。
デジタルデバイド(IT格差)とは
デジタルデバイド(IT格差)の定義
「デジタルデバイド(IT格差)」とは、デジタル技術を使える/使えないことで、生活や機会に差が生まれることです。
デジタルデバイドという問題意識は、インターネット普及が加速した1990年代半ばに大きく注目されました。米国商務省NTIAが1995年7月に報告書(Falling Through the Net)を公開し、そこから「持てる人/持てない人」の格差が社会課題として可視化されていきました。
デジタルデバイド(IT格差)の問題点
デジタルデバイド(IT格差)の最大の問題点は、「暮らしの“入口”そのものが変わってしまうこと」にあります。
行政手続き、学校の学習、求人応募、医療情報、災害情報、銀行・決済まで、社会の基本機能がオンライン前提になっていくほど、デジタルデバイド(IT格差)は大きな社会問題となります。必要な情報やITを使えない人、不慣れな人は、「不便」ではなく「機会を失う(=不利が積み重なる)」状態になりやすいといえます。
デジタルデバイド(IT格差)とSDGs
デジタルデバイド(IT格差)は、SDGsのいろんな目標に横断的につながるテーマです。ここではいくつかのつながりが深いポイントを紹介します。
- SDGs4:質の高い教育をみんなに
学習の機会がオンライン化するほど、端末・通信・スキルの差が「学べる/学べない」の差に直結します。
- SDGs9:産業と技術革新の基盤をつくろう
通信インフラやデジタル基盤が弱い地域ほど、産業や働き方の選択肢が狭まりやすいです。
- SDGs10:人や国の不平等をなくそう
デジタルにアクセスできないことが、収入・教育・地域差など既存の格差をさらに拡大させる可能性を生み出します。
- SDGs11:住み続けられるまちづくりを
近年は「インターネットを日常で誰でも問題なく使えること」、つまり社会インフラとしてのインターネット機能が重要視されています。
参考:SDGsってなんだろう?
デジタルデバイド(IT格差)によって引き起こされる社会問題
様々なSDGsの社会問題と繋がりのあるデジタルデバイド(IT格差)ですが、ここではより具体的な問題点を「情報通信白書/総務省」より深堀りしていきます。
日常生活における不利益の拡大
行政サービスや生活手続きは、ここ数年で一気に「オンライン前提」へ移行してきました。住民の利便性向上や業務効率化など、メリットも多く存在します。
しかしその一方で、ネット環境や端末、アカウント管理(ID/パスワード)、電子署名などの壁があると、「便利になるはずの仕組み」がそのまま生活していく上での参加条件になっている現状があります。
教育・就労機会の格差
GIGAスクール構想(児童生徒1人1台端末と高速ネット環境を整備し、ICTを日常的に活用する学びを進める政策)が進んでいます。その一方で、家庭の通信環境や保護者の支援、ICT活用スキルの差によって学習機会の格差が広がりやすくなっています。就労でも求人検索や応募がオンライン前提となり、端末や操作に不慣れな人ほど機会を逃しやすい状況です。
高齢者とデジタルネイティブ
高齢者は操作への不安や学習機会の不足からオンライン手続きや情報収集でつまずきやすく、生活の選択肢が狭まりがちです。一方、デジタルネイティブ(幼少期からICTに触れて育った世代)は手続きや学習をオンラインで完結できる場面が多く、世代間で利便性や機会に差が生まれています。
端末等の操作に不安を抱える人を取り残さない仕組みを、社会全体で整えていく必要があります。
参考:デジタルネイティブとは?世代ならではの特徴やアプローチ方法
地域差とインフラ格差
都市部と比べて、地方や山間部では回線整備や通信品質に課題が残り、オンライン授業やテレワークの選択肢が狭まりやすいです。インフラの差は、教育・医療・防災情報など生活機能の差として表れ、地域の機会格差につながります。
具体的には次のような問題があります。
- オンライン診療や予約/相談サービスを十分に活用できず通院負担が大きい(医療)
- 災害時の回線混雑・断絶で避難情報や安否確認が遅れる(防災)
命と毎日の暮らしに直結する問題が多く、早い解決が求められています。
経済状況による利用格差
端末代や通信費が負担になると、そもそもインターネットに接続できない、あるいは容量や料金を気にして利用を控える状況が生まれます。
- 動画教材の視聴やオンライン面接、申請手続きの途中で通信制限がかかる
- スマートフォンの性能不足でアプリが動かずに利用を断念
- 端末の故障や買い替えが難しく、学習や仕事、行政サービスに手が届かない
これらの問題を放置し続けると、学習・就労・行政サービスへのアクセスが制限され、経済的な格差がデジタル面でも固定化されやすくなります。
デジタルデバイドを解決に導く様々な取り組み例
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公共施設を活用した「誰でも使える」環境づくり
デジタルデバイド対策として有効なのが、図書館・公民館などの公共施設を“デジタルの入口”にする方法です。実際、日本の公共図書館では、利用者向けの無料Wi-Fi提供が進んでおり、文部科学省の調査では2023年に72.1%(721館中520館)が「利用者が使える無料Wi-Fiがある」と回答しています。
こうした拠点整備は、学習・就労・行政手続きへのアクセスを底上げし、特に回線や端末が家庭に行き届きにくい層にとって、生活機能を支える“安全網”になり得ます。
高齢者・障がい者向けのICT講座の開講
もう一つの柱が、スマホ・ネットを「使える」ようにするためのICT講座です。日本では総務省の「デジタル活用支援推進事業」が2021年度から進められており、携帯ショップや公民館等で、オンライン行政手続きの支援や相談を行う講習会を全国で実施しています。
この事業では、携帯ショップがない市町村(772市町村:2026年3月1日集計)でも実施を推進しており、都市部だけでなく“支援が届きにくい地域”に広げる設計が明記されています。
参考:デジタル活用支援
国内自治体の特色あるデジタルデバイド対策の例
デジタル技術やAI技術は生活の中の多様な場面での活用が進んでいます。ここでは、住民のデジタルデバイド解消を目指した3つの自治体の取り組みを紹介します。
ごみ分別支援AI「調布ごみナビ」|東京都調布市
東京都調布市が運用する、LINE上で使えるごみ分別案内サービスです。
相互友好協力協定を締結している国立大学法人電気通信大学及び同大学客員准教授が代表を務めるBorzoi AI(ボルゾイ エーアイ)株式会社との産学官連携によりこのシステムは開発されました。
- 言語の壁:多言語対応で、外国人住民でも情報に到達しやすい
- 情報探索の壁:「品目名が分からない」問題を、言い換え・画像で補助
- 問い合わせ負担の軽減:窓口・電話に集中しがちな質問を自己解決へ寄せられる(自治体側の負担減にも)
などの強みがあり、デジタルデバイド(IT格差)のないまちづくりを支えています。
参考:調布ごみナビの運用開始
ICTを活用したスマート農業と冬の除排雪|北海道岩見沢市
北海道岩見沢市では、農業分野で培ったICT(高精度測位など)を、冬期の除排雪にも応用することで、地域課題の解決を図る取り組みが進められています。具体的には、スマート農業で用いられるGNSS(高精度測位)ガイダンス装置等を活用し、未除雪路線の雪割作業を行うなど、季節によって用途を切り替えながら、作業の効率化・安全性向上を目指しています。
- 生活インフラの維持:豪雪地帯では除排雪の遅れが生活に直結するため、作業の安定化が暮らしの格差の縮小につながります。
- 人手不足への対応:担い手不足・高齢化が進む地域でも、作業計画や状況把握を支援し、少人数でも回しやすい体制づくりに役立ちます。
- 現場の“見える化”:作業内容や状況を共有しやすくすることで、属人化を減らし、判断のばらつきや引き継ぎの難しさを軽減できます。
このように、岩見沢市の取り組みは「農業の効率化」にとどまらず、冬の除排雪という住民の生活機能を支える分野にもICTを横断的に活用する点が特徴であり、地域の機会格差を生みにくい環境づくり(=デジタルデバイドの縮小)に貢献しています。
参考:北海道岩見沢市におけるICT利活用の社会実装|ICT地域活性化ポータル
つくば市ICT教育推進プログラム|茨城県つくば市
茨城県つくば市では、学校現場でのICT活用を継続的に推進し、「すべての児童生徒」に学びを届けることを目指した“先進的ICT教育”の取り組みを体系的に進めています。市の発信サイトでは、GIGAスクール構想やオンライン学習、授業づくりの工夫などをまとめて公開しており、現場の実践を見える形で共有しています。
また、「一人一台端末実践事例」では、1年生から9年生までの実践例を60事例まとめて掲載するなど、活用のノウハウを蓄積・横展開できる仕組みづくりが特徴です。
- 学習機会の底上げ:学校が「最低限のデジタル環境」を保証することで、家庭の通信環境や支援の差があっても学びの機会を確保しやすくなります。
- ICT活用能力の育成:調べる・まとめる・発表するなど、学習に必要なデジタルスキルを授業の中で段階的に身につけやすくなります。
- 教員側の支援・標準化:実践事例を共有することで、学校や先生による活用のばらつきを減らし、ICT活用を“特別な先生だけのもの”にしにくくします。
つくば市の取り組みは端末配備だけで終わらせず、実践知を公開・共有しながら活用を広げていく点に特色があります。
これからのデジタル社会と私たち
「誰一人取り残さない」社会はどのように実現するのか
デジタル化が進むほど、便利さは増す一方で、「使える人」と「使えない人」の差がそのまま生活の差になりやすくなります。だからこそ「誰一人取り残さない」社会を実現するには、デジタルを「特別な道具」ではなく、電気や水道のように誰もが当たり前に使える社会基盤として整える視点が欠かせません。
また、オンライン化を進めるほど、窓口・電話・紙などの「代替手段(アナログの逃げ道)」も残すことが公平性につながります。制度・インフラ・支援体制をセットで整え、「使えないことが不利益にならない設計」にしていくことが、取り残されない社会への近道です。
情報リテラシーの重要性
デジタル社会で本当に求められるのは、端末を操作できることだけではありません。情報があふれる時代には、「その情報は信頼できるか」「誰が何の目的で発信しているか」「自分の個人情報は守られているか」を判断し、行動できる力、つまり情報リテラシーが欠かせません。情報リテラシーが低いと、誤情報や詐欺、極端な情報に振り回されやすくなり、結果として不安からデジタル利用そのものを避けてしまうこともあります。
子どもから大人まで、学校教育だけでなく地域講座や職場研修などで学び続けられる環境を整えることが、デジタルデバイドの解消と安心な社会づくりの土台になります。
まとめ
デジタルデバイドは「ネットがあるかどうか」だけの問題ではなく、暮らしの入口にある情報やサービスへアクセスできるかどうかを左右する、現代の機会格差です。このような問題を放置すれば、不利益が連鎖していく可能性があります。
デジタルとともに歩む未来を実現するために、私たち一人ひとりができる小さな工夫と、地域や制度の支えを積み重ねていくことが、誰一人取り残さない社会への一歩になります。
update: 2026.2.18




