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ゼロ・ウェイストとは?ごみを出さない社会を目指す持続可能なライフスタイル【日本と世界の実践事例つき】

update: 2025.11.1

ゼロ・ウェイストとは?ごみを出さない社会を目指す持続可能なライフスタイル【日本と世界の実践事例つき】

地球温暖化やプラスチックごみ問題が深刻化するなか、「ゼロ・ウェイスト(Zero Waste)」という言葉が注目されています。ごみを出さない、使い捨てない、資源を循環させるという考え方は、単なるリサイクル運動を超えた新しい社会の仕組みです。この記事では、ゼロ・ウェイストの意味や背景、世界・日本の実践事例、そして今後の課題までわかりやすく解説します。

ゼロ・ウェイストとは?

ゼロ・ウェイスト(Zero Waste)の定義

ゼロ・ウェイストとは、廃棄物の発生を限りなくゼロに近づけることを目指す考え方です。単に「ごみを減らす」だけでなく、製品の設計段階から廃棄物を生み出さない仕組みを作り、資源を最大限に活用することで、焼却や埋立処分をなくしていく包括的なアプローチを指します。

国際的なゼロ・ウェイスト推進団体であるZero Waste International Alliance(ZWIA)では、「すべての資源を保全し、責任ある生産・消費・回収・再利用を通じて、焼却や環境・人体に害を及ぼす排出を行わないこと」と定義しています。

ごみゼロ運動やリサイクルとの違い

従来の「ごみゼロ運動」が主に清掃活動や分別の徹底を中心としていたのに対し、ゼロ・ウェイストはより根本的な変革を目指します。リサイクルは廃棄物処理の一手段ですが、ゼロ・ウェイストではリサイクル自体を最終手段と位置づけ、そもそも廃棄物を生み出さない「リデュース」や「リユース」を優先します。

つまり、ごみが出てから処理する「下流対策」ではなく、ごみを生み出さない「上流対策」に重点を置く点が大きな特徴です。

サステナブル・サーキュラーエコノミーとの関係

ゼロ・ウェイストは、持続可能な社会(サステナブル社会)や循環経済(サーキュラーエコノミー)と密接に関連しています。サーキュラーエコノミーは、従来の「採取→生産→消費→廃棄」という直線的な経済モデルから、資源を循環させる円環型の経済モデルへの転換を意味します。

ゼロ・ウェイストはこの循環経済を実現するための具体的な実践手法として位置づけられ、両者は相互に補完し合う関係にあります。

なぜゼロ・ウェイストが注目されているのか

大量消費社会から循環型社会への転換

20世紀後半から続いてきた大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムは、資源の枯渇や環境汚染など深刻な問題を引き起こしています。日本では高度経済成長期以降、便利で豊かな生活と引き換えに、膨大な量の廃棄物を生み出してきました。

このような背景から、限りある資源を有効に活用し、次世代に持続可能な社会を引き継ぐために、循環型社会への転換が急務となっています。

世界的なごみ問題と資源枯渇の深刻化

世界銀行の報告によると、世界の都市ごみ発生量は2016年の20.1億トンから2050年には34億トンまで増加すると予測されています。特にプラスチックごみによる海洋汚染は深刻で、推計で毎年800万トン以上のプラスチックが海に流出しているとされています。

同時に、レアメタルや石油などの天然資源の枯渇も懸念されており、資源を循環利用する仕組みの構築が国際的な課題となっています。

焼却・埋立処理の限界と環境負荷

日本は世界有数の焼却大国で、一般廃棄物の約80%を焼却処理していますが、焼却時に発生する二酸化炭素は温室効果ガスとして地球温暖化の要因となります。また、最終処分場の残余容量も限界に近づいており、環境省によると2020年度末時点での一般廃棄物最終処分場の残余年数は全国平均で22.4年となっています。

これらの処理方法の限界が明らかになる中、廃棄物そのものを削減するゼロ・ウェイストへの転換が求められています。

(参考:環境省「https://www.env.go.jp/content/900518688.pdf」)

 

SDGsや脱炭素とリンクする新しい目標

2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、目標12「つくる責任 つかう責任」において持続可能な消費と生産パターンの確保が掲げられています。また、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、廃棄物処理に伴う温室効果ガス削減も重要な課題です。

ゼロ・ウェイストはこれらの国際的な目標達成に直接貢献する取り組みとして、世界各国で推進されています。

ゼロ・ウェイストの基本原則「5R」

Refuse(断る)/Reduce(減らす)

「Refuse(リフューズ)」は不要なものを断ることを意味します。レジ袋や使い捨てのストロー、過剰包装などを断ることで、そもそもごみになるものを家に持ち込まないという考え方です。

「Reduce(リデュース)」は必要なものだけを必要な分だけ購入し、モノの消費量自体を減らすことです。長く使える質の良い製品を選ぶこともリデュースの一環です。

Reuse(再利用する)/Recycle(再資源化する)

「Reuse(リユース)」は一度使ったものを繰り返し使用することです。リユース容器の活用やフリーマーケット、リペアカフェなどでの修理・再利用が該当します。

「Recycle(リサイクル)」は使用済みの製品を原料として新しい製品を作ることですが、ゼロ・ウェイストの考え方では、リサイクルはエネルギーを消費するため、他の手段が取れない場合の最終手段と位置づけられています。

Rot(堆肥化する)

「Rot(ロット)」は生ごみなどの有機物を堆肥化(コンポスト)することです。家庭での生ごみ処理機の活用や、地域でのコンポスト施設の利用により、有機物を土に還すことができます。日本では生ごみが家庭ごみの約3割を占めるため、堆肥化は廃棄物削減に大きく貢献します。

+Repair・Rethinkなど、世界で広がる”7R”の考え方

基本の5Rに加えて、「Repair(修理する)」や「Rethink(再考する)」を加えた7Rや、さらに多くのRを提唱する動きも広がっています。Repairは壊れたものを修理して長く使うこと、Rethinkは本当に必要かどうか購入前に考え直すことを意味します。

これらの考え方は、単なるごみ削減の手法を超えて、私たちの消費行動や価値観そのものを見直す機会を提供しています。

ゼロ・ウェイスト宣言とは?

徳島県上勝町の「ゼロ・ウェイスト宣言(2003年)」の背景と目的

徳島県上勝町は2003年9月、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行いました。人口約1,500人の小さな町が、2020年までに焼却・埋立処分をなくすという野心的な目標を掲げた背景には、ごみ処理施設の老朽化と財政難がありました。

新しい焼却炉の建設には莫大な費用がかかることから、町はごみそのものを減らす方向へ舵を切り、住民の理解と協力を得ながらゼロ・ウェイストへの挑戦を始めました。

45分別の徹底とリサイクル率80%超の実績

上勝町では現在、ごみを45品目に分別しています。紙類だけでも9種類、プラスチック類は6種類など、細かく分別することで資源化率を高めています。この取り組みにより、2020年度のリサイクル率は約80%を達成しており、全国平均の20%を大きく上回っています。

分別の徹底は住民の負担増にもなりますが、資源の売却益が町に還元される仕組みや、分別することでごみ処理費用が削減されることへの理解が、住民の協力を支えています。

出典:Nippon.com/上勝町ゼロ・ウェイストセンター

ごみステーションや住民参加による取り組み

上勝町にはごみ収集車がなく、住民が自らごみステーションにごみを持ち込む仕組みです。2020年には新たに「上勝町ゼロ・ウェイストセンター(WHY)」が開設され、ごみの分別だけでなく、不用品の交換や環境教育の場としても機能しています。

住民同士の交流が生まれ、ごみを通じてコミュニティが活性化するという副次的な効果も生まれています。

世界が注目する地方発の循環型モデル

上勝町の取り組みは国内外から注目を集め、年間約2,500人の視察者が訪れています。小規模自治体だからこそ可能な住民参加型のモデルとして、世界各地の地域がその手法を学んでいます。

世界のゼロ・ウェイスト都市・企業の事例

サンフランシスコ:2020年までに埋立ゼロを目指す政策

米国カリフォルニア州サンフランシスコ市は2002年にゼロ・ウェイスト目標を採択し、2020年までに埋立・焼却ゼロを目指しました。コンポスト(堆肥化)とリサイクルの義務化、使い捨てプラスチック製品の規制など、包括的な政策を展開しています。

2012年時点でリサイクル率80%を達成し、現在も世界のゼロ・ウェイスト都市のモデルとなっています。

スロベニア・リュブリャナ:欧州初のゼロ・ウェイスト都市

スロベニアの首都リュブリャナは2014年、欧州の首都として初めてゼロ・ウェイスト戦略を採択しました。各家庭への分別容器の配布、生ごみの分別収集、リユースセンターの設置などにより、2014年時点で分別収集率61%残渣121kg/人・年まで削減しました。

(出典:Zero Waste Europe

パタゴニア・イケア・スターバックスなどの企業事例

アウトドアブランドのパタゴニアは、製品の修理サービス「Worn Wear」を展開し、衣類の長期使用を促進しています。イケアは2030年までにサーキュラー企業になることを目標に、家具のレンタルサービスや買い取りサービスを展開しています。

スターバックスは2025年までに世界中の店舗で使い捨てカップを削減し、リユース可能なカップへの移行を進めています。

日本企業(無印良品、資生堂、伊藤園など)の動向

無印良品は2020年から給水サービスを開始し、マイボトル持参を促進しています。資生堂は化粧品容器のリフィル化を進め、2025年までに100%サステナブルな容器の実現を目指しています。

伊藤園は茶殻を有効活用した製品開発を行い、廃棄物の削減と資源の有効活用を進めています。

日本で進むゼロ・ウェイストの実践と政策

環境省の「循環経済ビジョン」やプラスチック資源循環促進法

環境省は2020年に「循環経済ビジョン2020」を策定し、サーキュラーエコノミーへの移行を推進しています。また、2022年4月には「プラスチック資源循環促進法」が施行され、プラスチック製品の設計から廃棄まで、ライフサイクル全体での資源循環が法制化されました。

同法により、事業者には環境配慮設計の努力義務が課され、自治体には分別収集・再商品化の努力義務が定められています。

自治体のリユース・リデュース施策

京都市では「しまつのこころ条例」を制定し、2R(リデュース・リユース)を優先する施策を展開しています。横浜市は「ヨコハマ3R夢プラン」を推進し、市民・事業者と協働でごみ削減に取り組んでいます。

各地でリユースショップの設置やフードドライブ(余剰食品の寄付)、マイボトル給水スポットの整備など、具体的な施策が広がっています。

民間・NPOによるゼロ・ウェイスト認証制度

一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンは、ゼロ・ウェイストに取り組む事業者や施設を認証する制度を運営しています。認証を受けた施設は、廃棄物削減の取り組みを可視化し、消費者への訴求力を高めることができます。

ごみ処理や分別の最新動向

環境省の「一般廃棄物の排出及び処理状況等について」によると、2020年度の1人1日当たりのごみ排出量は901グラムで、2000年度の1,185グラムから約24%減少しています。リサイクル率は20.0%で横ばいが続いていますが、食品ロス削減やプラスチック資源循環の取り組みが今後の改善につながると期待されています。

個人ができるゼロ・ウェイスト生活の工夫

買い物:マイボトル・量り売り・エコバッグ

日常の買い物でできる工夫として、マイボトルの持参、量り売り店の利用、エコバッグの活用があります。最近では、無印良品やイオンなど大手小売店でも給水サービスや量り売りコーナーが設置され、利用しやすい環境が整いつつあります。

買い物前に本当に必要かを考え、計画的に購入することも重要です。

食生活:食品ロスを減らす・コンポストの活用

日本の食品ロスは年間約570万トン(2019年度)にのぼります。家庭でできる対策として、適量購入、食材の使い切り、賞味期限と消費期限の正しい理解があります。

生ごみについては、家庭用コンポストや自治体の生ごみ処理機補助制度を活用することで、廃棄物を削減できます。

ファッション・コスメ・暮らしのリユース文化

ファストファッションからの脱却、古着の活用、衣類の修理やリメイクなど、ファッション分野でもゼロ・ウェイストの実践が広がっています。化粧品では詰め替え製品の選択、固形シャンプーの利用などが選択肢となります。

家具や家電についても、修理して長く使う、中古品を活用する、シェアリングサービスを利用するなど、所有から利用への転換が進んでいます。

SNSや地域コミュニティから広がる若者の動き

InstagramやYouTubeなどのSNSでは、「#ゼロウェイスト」「#zerowaste」のハッシュタグで実践例が共有され、若い世代を中心に関心が高まっています。地域では、ゼロ・ウェイストマーケットやリペアカフェなど、コミュニティベースの活動が各地で生まれています。

ゼロ・ウェイストの課題とこれからの展望

リサイクルの限界や制度上の課題

リサイクルには技術的・経済的な限界があります。複合素材の分離困難性、リサイクル過程でのエネルギー消費、再生材の品質低下などの課題があり、リサイクルだけでは真の循環型社会は実現できません。

また、現行の廃棄物処理法や各種リサイクル法が縦割りであることも、包括的なゼロ・ウェイスト推進の障壁となっています。

消費者意識と企業・行政の連携の必要性

ゼロ・ウェイストの実現には、消費者の意識改革だけでなく、企業の製品設計や販売方法の変革、行政の制度整備が不可欠です。三者が連携し、それぞれの役割を果たすことで初めて社会全体の変革が可能となります。

特に企業には、拡大生産者責任の観点から、製品のライフサイクル全体を考慮した設計が求められています。

テクノロジー・デザイン思考・シェア文化による解決の可能性

AIやIoTを活用した廃棄物の最適化、バイオプラスチックなどの新素材開発、サーキュラーデザインの普及など、テクノロジーとデザイン思考がゼロ・ウェイスト実現の鍵となります。

また、カーシェアリングやサブスクリプションサービスなど、所有から共有へのシフトも、資源消費の削減に貢献しています。

まとめ:ゼロ・ウェイストは「暮らしを再設計する」こと

小さな選択が未来を変える

ゼロ・ウェイストは、私たちの日常生活における小さな選択の積み重ねから始まります。マイボトルを持つ、修理して使う、本当に必要か考えてから買う。これらの行動一つひとつが、持続可能な社会への転換につながります。

完璧を目指す必要はありません。できることから少しずつ始め、継続することが大切です。

ごみを減らすことは、よりよく生きることにつながる

ゼロ・ウェイストの実践は、単にごみを減らすだけでなく、私たちの暮らしそのものを見直す機会を提供します。必要最小限のものと暮らすミニマリズム、地域とのつながり、創造性を活かしたリメイクなど、新しい豊かさの発見にもつながります。

地球環境を守ることと、私たちがよりよく生きることは決して相反するものではありません。ゼロ・ウェイストは、両者を実現する持続可能なライフスタイルへの道筋を示しています。

 

update: 2025.11.1