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「移民政策」はなぜ話題に?|日本や海外の事例から学ぶ移民政策を成功させるためのポイントとは

update: 2025.7.6

「移民政策」はなぜ話題に?|日本や海外の事例から学ぶ移民政策を成功させるためのポイントとは

 

移民政策とは、単に外国人を受け入れるための制度ではなく、受け入れた人々と社会が共に生きていく未来を形づくる取り組みです。ここでは、各国で取り組まれている移民政策の具体例や、移民政策を成功に導くための大切なポイントについて考えていきます。

 

移民政策とは

移民とは

移民政策とは、外国人をどのように受け入れ、社会の一員として共に暮らしていくかを定める制度です。単なる入国管理にとどまらず、教育や福祉、文化の面でも多様な背景を持つ人々を社会全体で受け入れるために、広い視野が求められます。

一般に「移民」とは、自らの意思で他国に移り住む人々を指しますが、同じような意味合いで用いられる様々な言葉があります。ここでは、「移民」と「難民」、「定住外国人」、「外国人労働者」について、それらの言葉の違いについて解説します。

  • 移民

経済的・教育的な理由や家族の事情などで、自発的に他国に移住する人々のこと

国際法上での特別な保護の対象ではなく、受入国の制度に従う

  • 難民

迫害や戦争などから「自分の命を守るために」避難した人々

自発的な移動ではなく強制的な避難となるので、国際的な保護を受ける権利がある

  • 定住外国人

ある国に長期的に滞在し、永住権を取得し生活を送る人々

国籍は持たないため、選挙権など一部の制限は受けるが、仕事や生活は自由に行うことができる

  • 外国人労働者

就労を目的として一時的に他国に滞在する人

生活は滞在国の制度に依存するので、永住や家族の帯同が制限される場合もある

 

なぜ移民問題が起こるのか

移民問題が起こる背景は、受け入れる社会が、新しくその地域に参入してきた人々に対してうまく対応できないことによる摩擦や不安(受け入れ環境の準備不足や感情的な衝突)といった要因が背景にあります。近年、貧困や戦争、差別などから逃れてより良い暮らしを求める人々が増えており、今後も移民の世界的な増加により様々な「移民問題」が生まれることが予想されます。

日本の移民政策の現状

国内には様々な場所で働く外国人をよく見かけますが、2018年、安倍晋三元首相は衆院本会議での代表質問において「いわゆる移民政策をとることは考えていない」と明言しました。

参考:首相、移民政策を否定 衆院代表質問 – 日本経済新聞

 

つまり、日本政府は「移民」として外国人を受け入れているのではなく、出入国管理および難民認定法(入管法)を基にして「技能実習制度」として特定の外国人労働者を受け入れています。

厚生労働省は、在留資格を持ち国内で働く外国人労働者数の推移をまとめています。表中黄色で示された技能実習生数は、10年ほど前から年々増加傾向にあり、2024年には47万人を超えています。

参考:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和6年10月末時点)

 

世界の移民政策の現状

2024年現在、世界の国際移民の総数は2.81億人に上り、その数は世界人口の約3.6%に相当します。2000年時点の世界の国際移民の総数は1.73億人であったことからも、その数は増加傾向にあることがわかります。

移民の受け入れ数は、アメリカが世界最多で、2020年には4,343万人の移民を受け入れました。これは、アメリカ全土の人口の13.3%に当たります。次いでドイツ、サウジアラビアが続きます。

また、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートなどの湾岸諸国においては、その国の人口に占める移民の割合が特徴的です。アラブ首長国連邦では人口の85.3%、クウェートでは人口の69.8%が移民で構成されています。

参考:http://jetro.go.jp/biznews/2024/05/222e148812417488.html

 

移民政策のメリット・デメリット

移民政策のメリット

 

年々世界の様々な地域で移民が増加し、外国人と共生することが、多くの人にとって身近に感じることが増えてきました。ここでは、国や地域が移民を受け入れることによるメリットをまとめます。

 

経済・労働面でのメリット

  • 労働力の補完:少子高齢化が進む地域では、若い移民が大きな労働力となる
  • 税収の増加:働いて納税する移民の存在は、社会保障制度の維持にも貢献
  • 多様なスキルの流入:IT・医療・研究など、高度人材の移住で国際競争力が向上
  • 消費の活性化:移民も住居・食料・教育などにお金を使うため、内需が広がる

社会・文化面でのメリット

  • 多文化共生の促進:異なる文化や価値観の交流が増える
  • 人口減少への対策:特に地方部であると、人口維持や地域の活性化につながる

移民政策のデメリット

 

移民政策には、さまざまなメリットもある一方で、デメリットも存在します。以下に、移民政策を進めるにあたって直面するデメリットをまとめます。

 

経済・制度面でのデメリット

  • 雇用の競争:現地労働者と移民の間で仕事の取り合いが起こる懸念
  • 社会保障制度への負担感:医療・教育・福祉などへのアクセス過多
  • 違法滞在・不法就労のリスク:ブラック就労や人権侵害につながるおそれ

社会・文化面でのデメリット

  • 文化・宗教・生活習慣の摩擦:宗教や価値観の違いによるすれ違いの発生
  • 治安悪化への懸念:一部の移民に対して「犯罪の増加」を懸念する声がある

(※統計的に証明されていない場合も多い)

  • 差別や排外主義の拡大:一部の政党・メディアによる社会的な分断の進行

 

移民政策の成功例5選

 

世界で移民が増加していることを背景に、様々な国で特徴的な移民政策が行われています。ここでは、各国が進める移民政策の一部を紹介します。

 

特定技能制度による外国人労働者の受け入れ|日本

 

特定技能制度とは、介護や建設業、農業などの人手不足が深刻な産業分野において、即戦力となる一定の専門技能を持つ外国人を受け入れるための在留資格制度です。

2019年に開始され、特定技能1号(技能試験と日本語力の確認が必須)では最大5年の在留が認められ、12〜16業種で即戦力となる外国人労働者が受け入れられます。人数規模は年々増加しており、令和6年12月末時点で28.4万人(速報値)の外国人が技能実習生として日本国内で働いています。

 

参考:外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組

   特定技能制度運用状況 ①

ポイント制永住権申請制度「Express Entry」|カナダ

Express Entry(エクスプレスエントリー)とは、2015年に始まった熟練労働者の永住権申請を管理・選抜するオンラインシステムです。これはポイント制のシステムで、年齢・学歴・語学力など、申請者のスキルに基づく公平な選抜がポイントの獲得に繋がります。

2020年には、本制度を利用して移民申請を行う人数は、年間10万人を超えています。

 

参考:エクスプレスエントリー (EE) | QLSeeker Canada Inc.

 

一部の国を対象としたグリーンカード抽選制度|アメリカ

アメリカのグリーンカード抽選制度(Diversity Visaプログラム)とは、1980年代の多様な移民構成を目指した1990年移民法に基づき、低移民率の国から最大55,000件の永住権を抽選で発行する制度です。

応募者は毎年約1,000万人規模で、高卒以上または職務経験が条件です。抽選後も書類審査や面接を経て、最終的に永住権が与えられます。

参考:アメリカ政府Webサイト

 

高技能外国人労働者を受け入れるBlue Card制度|EU

Blue Card制度(EU)とは、高い専門性・スキルを持つ第三国(非EU)出身者向けの在留・就労許可制度で、EU全体で高度人材の受け入れを効率化するための枠組みです。2012年に導入が始まり、2021年にはEU加盟国にBlue Cardに関する国内法化を義務付けました。

上記で紹介したアメリカのグリーンカード抽選制度といくつか類似点があり、Blue Card保有者には1年から4年までの一定期間、発行国に居住し就労する権利が与えられます。

 

参考:外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用 | ドイツ – 欧州 – 国・地域別に見る – ジェトロ

 

語学+社会理解教育を行うIntegration Courses|ドイツ

Integration Course(統合コース)とは、2005年に始まった移民や難民がドイツ社会に円滑に適応するための公的な教育プログラムです。

600時間のドイツ語学習と、100時間のドイツの歴史や法制度、政治に関してを学ぶ社会学習の計700時間をかけて、ドイツで生活していく上で欠かせない「語学+社会理解」をバランスよく習得していきます。

参考:ドイツの統合コース制度におけるオリエン テーションコース

 

移民政策を成功させるためのポイントとは?

受け入れる目的や対象を明確にする

移民政策を成功させるためには、「何のために、どんな人を受け入れるのか」という目的と対象をはっきりさせることが不可欠です。

たとえば、労働力が足りないから受け入れるのか、人道的支援のためなのかで、必要な制度やサポートは大きく変わってきます。受け入れ側と来る側のミスマッチを防ぎ、社会全体の理解と共生につなげるためにも、この点を最初に整理することが大事です。

 

社会統合への支援

移民を受け入れるだけではなく、その人たちが地域社会にしっかりと溶け込み、自立して暮らせるようにサポートすることがとても大切です。言葉の壁を越えるための語学教育や、仕事を見つけるための支援、子どもたちの教育や地域での交流の機会など、さまざまな面での「社会統合支援」が必要です。

こうした支援があることで、移民も安心して暮らせるようになり、地域とのつながりが深まり、社会全体の安定や活性化にもつながっていきます

国民の理解と合意形成

移民政策を進めるうえで大切なのは、国民の理解と納得を得ることです。政策の目的や必要性がきちんと伝わらなかったり、不安や誤解が放置されたままだと、移民への偏見や対立が生まれてしまいます。

国民が「なぜ受け入れるのか」を理解し、共に暮らしていく意識を持つことで、移民政策ははじめて社会に根付いていきます

 

差別・搾取の防止

移民政策を進める中で、差別や搾取を防ぐことは重要な観点です。日本では、技能実習制度や特定技能制度のもとで、多くの外国人労働者が働いてきましたが、その中には過酷な労働や低賃金、人権侵害に苦しんだ人も少なくありません。

これからの制度づくりでは、労働環境の監視、相談窓口の充実、企業の責任意識の向上など、外国人が安心して暮らせる仕組みを整えることが大切です。

透明で公平な選抜基準

移民を受け入れる基準が明確に示されていることで、申請者にも国民にもわかりやすく、納得しやすい制度になっています。受け入れる人材の選定が恣意的であったり、制度の運用が不透明であった場合、移民本人にとっても、受け入れ国の国民にとっても不信感や不公平感が生まれ、制度の正当性が揺らぐおそれがあります。

カナダで実施されるポイント制永住権申請制度「Express Entry」では、得点配分が事前に公開されており、その選抜基準が公平で明確であるといえます。

 

まとめ

世界の人口の約3.6%にあたる2.81億人の人々が国境を越えて移動する現代において、移民政策に関する議論は、各国が避けて通れない重要な課題です。

今後、移民と社会がともにより良い未来を築いていくためには、目的と対象の明確化、社会統合支援、国民の理解、差別や搾取の防止、そして透明で公平な選抜基準の整備といった視点が不可欠です。単に人を受け入れるだけでなく、「誰もが安心して暮らし、支え合える社会をどうつくるか」を問うことこそが、これからの移民政策に求められています。

update: 2025.7.6