
海面上昇とは?原因や日本で進む現実と影響を受ける地域ランキング
update: 2025.6.15
海面上昇とは?原因や日本で進む現実と影響を受ける地域ランキング
地球温暖化が進行するなか、世界中の海面はゆっくりと、しかし確実に上昇しています。これは遠い南の島の話ではなく、私たちが暮らす日本でもすでに現実の問題です。とくに東京や大阪などの大都市圏をはじめ、海抜の低い地域では浸水や高潮被害のリスクが年々高まっています。
本記事では、海面上昇の仕組みや原因、日本国内で影響が深刻な地域のランキング、経済や生態系への影響、そして私たち一人ひとりにできる対策まで、わかりやすく解説します。
Contents
海面上昇とは?原因や日本で進む現実と影響を受ける地域ランキング

海面上昇とは何か?
海面上昇とは、地球上の平均的な海面の高さが長期的に上がっていく現象を指します。これは、自然な変動ではなく、主に人為的な気候変動によって引き起こされるものであり、世界各地の沿岸地域において、浸水や高潮のリスクを高めています。
海面は風や気圧の影響で短期的に上下することがありますが、「海面上昇」とは数十年単位で継続的に観測される平均的な上昇傾向を指します。観測には、潮位計(日本では港湾や離島を中心に設置)と、近年では人工衛星による全球監視データが用いられています。
海面上昇の定義
気象庁の定義では、「海面上昇」は地球温暖化などの影響により、海水面が長期的に上昇する現象とされています。観測された海面の高さは、基準年(通常は2000年や1993年)に対する変化量で示され、世界平均で見ると1901年から2018年までの間におよそ20cm上昇しています(環境省:IPCC第6次評価報告書より)。
海面上昇の原因
海面上昇は、複数の要因が重なって進行しています。主な要因は以下の通りです。
氷床や氷河の融解
南極やグリーンランド、また世界各地の山岳氷河が気温上昇により融解し、その水が海に流れ込むことで海面が上がります。特にグリーンランドでは1990年代以降、年間数千億トン規模で質量を失っているとされ、世界全体の海面上昇に大きく寄与しています。

海水の熱膨張
海水は温まると体積が増える性質を持っています。地球温暖化によって海水温が上昇することで、海水自体が膨張し、海面が高くなります。熱膨張は、20世紀後半から21世紀初頭にかけての海面上昇の3〜4割程度を占める主因とされています。
地盤沈下との複合影響
海面そのものが上昇していなくても、地盤が沈むことで相対的に海面が高くなります。日本の都市部(特に東京湾や大阪湾沿岸)では、過去の地下水汲み上げや埋立地の沈下によって、地盤沈下が進んだ結果、海面上昇と同様のリスクが現れています。
地球規模の気候変動(温室効果ガスの増加)
CO₂をはじめとする温室効果ガスの排出が大気中の熱を閉じ込め、地球全体の平均気温を押し上げています。この結果として、氷の融解や海水温の上昇が起こり、海面上昇が加速しています。IPCCによれば、今後も人為起源の温室効果ガス排出が続けば、今世紀末までに最大で約1メートルの海面上昇が起こる可能性があると予測されています。
日本における海面上昇の現状

日本周辺でも、海面上昇はすでに進行しており、観測データからその影響が明確になっています。
気象庁によると、日本沿岸の平均海面水位は、1993年から2020年の約30年間でおよそ8.7cm上昇しています。これは世界平均(約9.0cm)とほぼ同等の水準ですが、地域によって上昇速度に差が見られます。
たとえば、
- 東京湾(千葉県・東京都沿岸)では、地盤沈下の影響も加わり、相対的な海面上昇のリスクが高いとされています。
- 北海道の一部や西日本沿岸でも、台風や高潮と組み合わさることで被害リスクが増加しています。
また、気象庁の「潮位の年平均値」によると、2000年代以降、平年を大きく上回る年が継続していることが報告されています。これにより、今後さらに高潮や内水氾濫などの被害が常態化する可能性があります。
さらに注目すべきは、海面上昇が「突発的な災害」ではなく、「毎年少しずつ生活環境を変える要因」になっている点です。とくに都市部の臨海地域では、ハードなインフラ(堤防・水門など)だけでなく、住民の避難行動や自治体の計画見直しも求められています。
(気象庁)
海面上昇の影響を受ける日本の地域ランキング
海面上昇の影響は、日本全国に広がりつつありますが、とくに被害が懸念されているのは以下の地域です。ここでは、地形・人口密度・過去の浸水履歴などをもとに、影響の大きい地域をランキング形式で紹介します。
第1位:東京都江東区・江戸川区・中央区など(東京湾沿岸)
東京都の湾岸エリアは「ゼロメートル地帯」が広がり、海面より地面が低い地域が多数存在します。とくに荒川や隅田川の流域では高潮や大雨との複合災害リスクが高く、住民の避難体制や都市インフラへの影響が深刻な課題となっています。
第2位:大阪府大阪市・堺市・尼崎市など(大阪湾沿岸)
大阪湾沿岸部では、地盤沈下と海面上昇が同時に進行しており、高潮リスクが高い地域です。南海トラフ地震と連動する津波への備えも求められており、歴史的にも伊勢湾台風による浸水被害の教訓があります。
第3位:愛知県名古屋市南部・豊橋市(三河湾周辺)
工業地帯と住宅地が混在する地域であり、海抜の低い地域が多く存在します。近年は内水氾濫や高潮被害の対策として、ポンプ場や防潮堤の整備が進められていますが、都市開発が続く中でリスク管理が難しい状況です。
第4位:千葉県浦安市・市川市・習志野市(東京湾東岸)
埋立地の比率が高く、地盤沈下も併発している地域です。東京湾との距離が近く、満潮や台風時の高潮による影響が懸念されています。特に住宅密集地では浸水対策と避難経路の整備が課題となっています。
第5位:沖縄県那覇市・石垣市・宮古島市
海岸線の浸食やサンゴ礁の劣化によって、波のエネルギーが直接沿岸に届きやすくなっており、低地への浸水が増加しています。観光インフラへの被害や農業用地の塩害も報告されており、地元経済への影響が懸念されています。
第6位:北海道釧路市・根室市・小樽市
寒冷地域であっても、海面上昇の影響は例外ではありません。港湾施設や漁港が密集する地域では高潮対策が急務となっており、漁業活動にも影響が及ぶ可能性があります。
第7位:新潟県新潟市・長岡市
日本海側に位置するものの、河川と海が近接する低地に多くの市街地があります。特に信濃川や阿賀野川の流域では、内水氾濫と高潮が重なることで、浸水リスクが高まっています。
第8位:福岡県柳川市・佐賀県有明海沿岸
干潟や低平地が広がる有明海沿岸では、海抜ゼロメートル以下の農地や市街地が多く、高潮や塩害による農業被害が懸念されています。高潮防止施設の老朽化も課題です。

海面上昇が与える経済と生態系への影響

海面上昇は、都市のインフラや地域経済、さらには自然環境にまで広く影響を及ぼします。特に低地に広がる都市圏や沿岸部では、そのリスクが顕著です。
都市インフラ・産業への影響
海面上昇によって、港湾施設・下水処理場・発電所・道路網などの社会インフラが浸水リスクにさらされます。
たとえば東京湾岸の物流拠点や大阪湾の工業地帯では、高潮と組み合わさることで、経済活動が一時的に停止する可能性があります。
また、保険業界では海面上昇を含む気候リスクの増大を見込み、自然災害に関連する保険料の上昇や補償対象の見直しも始まっています。
農業・漁業への影響
沿岸部の農地では、塩水が地下水や灌漑水に混入する「塩害」が問題となり、米や野菜などの作物の収穫量が減少する恐れがあります。
とくに有明海沿岸や新潟県の河口域では、高潮・海水の逆流による農業被害が懸念されています。
漁業においては、海水温の上昇や潮流の変化により、漁場が移動したり、水産資源が減少するリスクがあります。沿岸漁業への依存度が高い地域では、地域経済への直接的打撃となる可能性があります。
生態系への影響
海岸線の侵食や干潟・湿地の減少により、沿岸生物の生息環境が失われつつあります。
たとえば東京湾や伊勢湾の干潟では、シギ・チドリ類といった渡り鳥の飛来数が減少傾向にあります。
また、沖縄周辺では、海水温の上昇によるサンゴ礁の白化現象が顕著で、生態系の多様性と観光資源の両方に影響を及ぼしています。
海面上昇に対する日本政府と自治体の取り組み

海面上昇を含む気候変動の影響に対し、日本では国・自治体の双方で対応策が進められています。政策・計画・インフラ整備の3つの視点から主な取り組みを整理します。
国の政策・法整備
国としては、2018年に施行された気候変動適応法を軸に、各自治体が地域特性に応じた「適応計画」を策定するよう促しています。この法律により、自治体・研究機関・民間が連携して気候リスクへの備えを強化する体制が整いつつあります。
また、国土交通省や環境省では、以下のような対策が進められています。
- 全国の沿岸を対象にした高潮・津波・海面上昇のリスクマッピング
- 老朽化した防潮堤や排水設備の補強・再整備
- 都市再生特別措置法による水害リスク区域の指定と土地利用の誘導
さらに、日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を掲げ、温室効果ガス削減による海面上昇の長期的抑制も目指しています。
(環境省:気候変動適応法)
自治体ごとの具体的な対応
自治体レベルでは、被害が予測される地域ごとに実践的な対策が講じられています。
- 東京都:荒川・隅田川流域を中心にスーパー堤防事業や「東京水害ハザードマップ」の整備を推進。江東5区の広域避難計画にも着手しています。
- 名古屋市:高潮対策ポンプ場の増強や、高潮浸水想定区域の見直しを進行中。
- 沖縄県:海岸浸食の激しい地域では、リーフ(サンゴ礁)を活用した波消し工法や緑化による自然共生型防災を実施。
- 新潟市・佐賀市など:干拓地や低平地における排水能力の強化、住民への避難情報提供体制の見直し。
これらの取り組みは、防災・減災だけでなく、地域住民の暮らしや経済活動を維持するための重要な基盤となっています。
(東京都)
海面上昇の進行を遅らせるために個人・企業ができること
海面上昇を完全に止めることは困難ですが、進行を遅らせたり、被害を最小限に抑えるために、私たち一人ひとりや企業にもできることがあります。
日常生活での脱炭素アクション
海面上昇の根本的な原因は、温室効果ガスによる地球温暖化です。個人が取り組める行動として、以下のような脱炭素アクションが挙げられます。
- 再生可能エネルギーの活用(太陽光・風力由来の電力への切り替え)
- 省エネ機器の導入(高効率エアコンやLED照明など)
- 公共交通の利用・自転車通勤への切り替え
- 食材の地産地消・食品ロス削減
- マイバッグ・マイボトルの利用によるプラスチック削減
これらの行動は、温室効果ガス排出の抑制に直結し、長期的には海面上昇リスクの軽減にもつながります。
ソーシャルビジネス・企業の取り組み
企業レベルでは、気候変動リスクに対する適応と緩和の両面で取り組みが進められています。とくに以下のような領域での活動が注目されています。
- サステナブル経営(ESG経営)の導入
例:排出量の見える化と削減目標の設定(SBT)、再エネ100%の調達(RE100) - ブルーカーボンや自然資本への投資
例:沿岸部のマングローブ植林、干潟再生など、海洋の炭素吸収力を高める活動 - ソーシャルビジネスとの連携・支援
例:環境NPOへの寄付、地域の防災・環境教育を支援するCSR活動
また、国際的な動向としても、企業には気候関連財務情報開示(TCFD)の対応が求められつつあり、海面上昇を含む物理的リスクへの戦略的対応が重要になっています。

まとめ:未来の日本を守るために
海面上昇はすでに進行している現実
海面上昇は、将来の話ではなく、すでに日本各地で影響が現れつつある進行中の現実です。
東京湾や大阪湾では、高潮や内水氾濫の頻度が上がり、農漁業や生態系への被害も報告されています。これは気候変動の一側面であり、放置すればより大きな災害や生活の不安定化を招く恐れがあります。
地域社会・国・企業・個人の連携がカギ
この問題に立ち向かうには、行政だけでなく、企業、地域社会、そして私たち一人ひとりが連携して取り組むことが不可欠です。
- 国や自治体は、科学的知見に基づいた防災・インフラ政策を推進する
- 企業は、温室効果ガスの削減と気候リスクへの対応を加速させる
- 個人は、日常の選択を通じて脱炭素型の暮らしに切り替える
こうした多層的な行動の積み重ねが、海面上昇による影響を最小限に抑え、持続可能な未来を守る力になります。
気候変動とその結果としての海面上昇を「遠い出来事」ではなく「自分ごと」として捉え、できることから始めることが大切です。
update: 2025.6.15