Pursuing Career In Social Impact

#Environmental Issues / #Poverty Issues / #Education Issues / #Marine Issues /
#Gender Issues / #Urban Development & Infrastructure / #Food security & Hunger issues /
#Ethical Consumption & Production / #Labor Issues / #War, Refugees & Migration Issues

Magazine

フィリピンのスラム街とは?現地の実態・代表的な場所・支援の現場を徹底解説

update: 2025.5.11

急速な都市化の一方で、深刻な貧困問題を抱えるフィリピン。首都マニラをはじめとする都市部には、現在も多くのスラム街が存在し、過酷な環境で暮らす人々がいます。スモーキーマウンテンやトンド地区など、名前は耳にしたことがあっても、その実態や背景を正確に理解している人は少ないのではないでしょうか。

本記事では、フィリピンにおけるスラム街の現状とその形成背景、代表的な地域や住民の生活、そして国内外の支援活動までをわかりやすく解説します。

フィリピンのスラム街とは?現地の実態・代表的な場所・支援の現場を徹底解説

フィリピンのスラム街とは?

スラム街の定義と特徴

スラム街とは、都市の中で貧困層が密集して暮らす住宅地域を指し、インフラ整備や公的サービスがほとんど行き届いていない場所です。正式な土地の権利を持たない住民が多く、違法建築や狭いスペースに無理やり建てられた住居が密集しているのが特徴です。

こうした地域では、水道・電気・下水道といった基本的なライフラインが整っていないことが多く、衛生状態は劣悪です。また、教育や医療といった公共サービスも不足しており、住民の多くは非正規雇用や日雇い労働で生計を立てています。

治安面でも課題があり、ドラッグや窃盗といった犯罪が発生しやすい環境にある一方で、地域のつながりや助け合いの文化が根づいている側面もあります。

スラムは単なる貧困の象徴ではなく、経済格差や都市政策の歪みを映し出す社会問題の縮図であるともいえるでしょう。フィリピンでは、こうしたスラムがマニラやセブなどの都市周辺に広がっています。

フィリピンにおけるスラムの現状

 

フィリピンのスラム街は、都市化の進展と経済格差の拡大によって深刻化しており、特にマニラ首都圏では数十万人がスラムに居住しているとされています。これらの地域では、水道・電気・下水といった基礎インフラが整っておらず、衛生状態は非常に悪い状況です。そのため、デング熱や結核などの感染症が発生しやすくなっています。

さらに、教育や医療へのアクセスも極めて限定的であり、子どもたちが十分な教育を受けられないまま成長するケースも多く、貧困の連鎖が続く構造が固定化しています。また、火災や洪水といった災害の被害も頻繁で、住環境の脆弱さが大きなリスクとなっています。

このような環境にも関わらず、仕事を求めて都市部に移住してくる人々によりスラムは拡大しており、抜本的な対策が求められているのが現状です。

 

スラム街が形成される背景と原因

 

スラム街の形成には、急速な都市化と農村部の貧困が大きく関係しています。フィリピンでは農村から都市へ職を求めて移住する人が多くいますが、都市部には十分な住居や雇用が用意されていないため、土地の権利が曖昧な空き地やゴミ処理場周辺などに人々が集まり、スラムが自然発生的に形成されていきます。

また、政府の都市計画や社会福祉政策の遅れも一因です。公営住宅の供給が不足しているうえに、低所得層を対象とした支援制度が整っていないため、貧困層が自力で居住地を確保せざるを得ない状況が続いています。

加えて、土地の所有権制度の複雑さや腐敗した行政が、住民の生活基盤の不安定さを助長しています。結果として、法的保護もインフラもない空間に人々が集まり、スラム街として定着していくのです。

主なスラム地域の紹介

 

フィリピンには各地にスラム街が存在しますが、特に大規模かつ社会課題が集中しているのがマニラ首都圏です。その中でも代表的な地域が「トンド地区」「パヤタス地区」「ロレガ地区」です。

マニラ市・トンド地区

マニラ市に位置するトンド地区は、フィリピン最大級のスラム密集地であり、国内外でその過酷な生活環境が注目されています。もともと港湾労働者が多く暮らしていた地域ですが、人口の急増とともにインフラ整備が追いつかず、違法住宅が密集するスラム街が形成されました。

この地域には「スモーキーマウンテン」や「ハッピーランド」といった象徴的なスラムがあり、廃棄物を収集・選別して生活費を稼ぐ家族が多く存在しています。トンドは治安の悪化や火災リスクの高さでも知られており、行政の介入が難しいエリアも少なくありません。

一方で、地域住民同士のつながりや助け合いも見られ、単なる“危険地帯”ではなく、人々が必死に生きる場でもあることが、この地域の複雑さを物語っています

 

スモーキーマウンテンについてはコチラの記事で詳しく紹介しています。

https://socialactcareer.com/magazine/677/

 

ケソン市・パヤタス地区

ケソン市のパヤタス地区は、フィリピン最大級のゴミ処理場があることで知られたスラム地域です。特に1990年代以降、地方から職を求めて移り住んだ人々によって急速に人口が増え、廃棄物を収集して生活する家庭が数多く存在しました。

2000年にはゴミ山の崩落事故が発生し、多くの死傷者を出したことで国際的にも注目されました。現在は公式には埋立地としての機能を終えたものの、その周辺にはいまも非正規の住居が広がり、生活の質は改善されていません。

インフラは整備されておらず、水や電気の供給は不安定です。衛生環境の悪さから感染症のリスクも高く、住民の多くは日雇いや非正規の仕事に従事し、教育や医療へのアクセスも限られたままです。パヤタスは、都市の成長の裏にある格差の象徴とも言える地域です。

 

セブ島・ロレガ地区

 

ロレガ地区は、セブ市中心部に位置するスラム街で、住民の一部が墓地の敷地内に居住している特殊な地域として知られています。都市部への人口流入に対し、十分な住宅供給が追いつかず、公営墓地の隙間や廃墟を住居として使わざるを得ない状況が生まれました。

この地域では、墓石の上にベッドを置いたり、納骨堂を改造して住むといった光景が日常的に見られ、フィリピンの貧困の深刻さを象徴しています。もちろん、水道・電気・衛生環境は極めて劣悪で、蚊や病気の蔓延も課題です。

しかしながら、ロレガには地域コミュニティのつながりや非公式の自助活動もあり、単に過酷な場所というだけでなく、「生きるための選択」としてそこに暮らす人々の現実が存在しています。観光地としてのセブの表側とはまったく異なる、もうひとつの顔がここにはあります。

スラム街の生活環境

フィリピンのスラム街では、日常生活のすべてが厳しい制約の中で営まれています。多くの住居はトタン板や廃材を使った仮設的な造りで、雨風をしのぐのがやっとという状態です。道路は舗装されておらず、排水機能も不十分なため、洪水や汚水のあふれが頻繁に発生します。

インフラの未整備により、清潔な水へのアクセスが困難であり、トイレやシャワーの設備も共有もしくは存在しないケースが多く見られます。これにより、感染症や皮膚病のリスクが常につきまといます。

また、騒音やゴミの問題、野犬やネズミの出没なども日常的な悩みであり、子どもが安心して遊べる場所もほとんどありません。過酷な環境の中でも、住民同士の助け合いによって最低限の生活が維持されているのが現実です。

住居の構造と衛生状態

スラム街の住居は、トタンやベニヤ板、ビニールなど廃材を使って建てられた簡易的な構造がほとんどです。建築基準や耐久性は考慮されておらず、強風や豪雨で倒壊する危険性も高い状態にあります。密集して建てられているため、火災が発生すると一気に燃え広がるリスクも常に抱えています。

さらに、衛生状態は極めて劣悪です。上下水道が整備されていない地域が多く、排水はむき出しの側溝や土の上に垂れ流し状態で、悪臭や害虫が絶えません。ゴミの収集もほとんど行われず、住居の周囲には生活ごみが山積みになっていることも珍しくありません。

教育機会と子どもたちの生活

スラム街の子どもたちは、教育を受ける機会が限られており、多くが学校に通えない状況にあります。家庭の経済的事情から、幼い頃から労働に従事せざるを得ない子どもも少なくありません。また、学校に通っていても、教材や制服、交通費などの負担が重く、中途退学するケースも多く見られます。このような状況は、貧困の連鎖を断ち切ることを困難にしている要因の一つです。

 

治安状況と日常生活の課題

 

スラム街では、犯罪や暴力が日常的に発生しており、住民の安全が脅かされています。特に、麻薬の取引やギャングの抗争が問題となっており、子どもたちが巻き込まれるケースもあります。また、警察の介入が限定的であるため、住民自身が自衛手段を講じる必要があります。さらに、生活インフラの未整備や失業率の高さも、日常生活の大きな課題となっています。

スラム街での支援活動

NGOや国際機関の取り組み

フィリピンのスラム街では、多くの団体が貧困の連鎖を断ち切るために活動しています。たとえば、アジア教育友好協会(AEFA) は、マニラ周辺や農村部で学校建設や学用品の提供、教師の育成を行い、子どもたちの教育環境を整えています。

セブ島を拠点に活動する ハロハロオアシス(HOPE) は、栄養改善、母子保健、職業訓練を支援の柱とし、地域の女性や若者の経済的自立を支えるプログラムを展開しています。

国際NGOの ワールド・ビジョン は、全国のスラム地域において、教育・医療・衛生・子どもの保護にまたがる包括的な支援を提供しています。スポンサー制度によって、1人ひとりの子どもに継続的な支援が届けられています。

 

ボランティア活動の実例

 

スラム街でのボランティア活動には、教育支援や子どもたちとの交流、生活環境の改善など、さまざまな形があります。例えば、現地の子どもたちに英語や数学を教える活動や、清掃活動を通じて衛生環境を整える取り組みなどが行われています。これらの活動は、現地の人々との信頼関係を築き、持続可能な支援につながる重要なステップとなります。

支援活動の成果と課題

フィリピンのスラム街では、長年にわたる支援活動によって確かな成果が見え始めています。たとえば、ICAN(アイキャン) が支援するトンド地区では、就学率の向上や地域防災力の強化、若者の職業訓練による就職率の改善が報告されています。

また、ワールド・ビジョン・ジャパン の活動地域では、栄養不良児の減少や乳幼児死亡率の改善といった成果も出ています。現地の人々が衛生や教育の重要性を理解し、主体的に行動する姿勢が育まれている点は、持続的変化の兆しです。

一方で課題も多く、支援の地域格差や資金不足、ボランティアの短期化による継続性の問題が挙げられます。さらに、現地文化とのズレやトップダウン型支援の限界もあり、活動の成果が一時的にとどまるケースもあります。

今後は、現地主導のプロジェクト設計と地域社会との協働体制の強化が、真の課題解決の鍵となります。

スラム街を訪れる際の注意点

スラム街を訪れる際は、事前の情報収集と心構えが極めて重要です。日本とは治安や文化が大きく異なるため、「貧困地域を見に行く」という軽い気持ちでは決して立ち入るべきではありません。必ず現地の信頼できるガイドやNGOと同行し、無断で立ち入ることや写真撮影を避けることがマナーです。

安全対策とマナー

 

スラム街は地域によって治安状況が異なり、ひったくりや詐欺に巻き込まれるリスクもあるため、以下のような基本的な対策が必要です。

  • 高価な持ち物やブランド品は持ち込まない

  • 貴重品は最小限にし、身体に密着して持つ

  • 肌の露出が少ない服装で目立たないようにする

  • 単独行動は避け、現地スタッフの指示に従う

また、現地の宗教・生活習慣に対する敬意を忘れず、礼儀正しく丁寧な振る舞いを心がけましょう。
安全と信頼の両方を守ることで、現地の人々との誠実な関係構築につながります。

 

現地ガイドの重要性

 

スラム街を訪問する際には、信頼できる現地ガイドの同行が不可欠です。ガイドは単なる案内人ではなく、地域の事情や文化背景を理解し、訪問者と住民との間を橋渡しする役割を担います。
特にマニラのトンド地区やセブのロレガのようなエリアでは、ガイドなしの訪問はトラブルや誤解を招きかねず危険です。

訪問時の心構え

 

スラム街の訪問は、単なる「見学」や「学び」の場ではなく、人々の生活の中に一歩足を踏み入れる行為です。訪問者には、まず偏見や先入観を手放すことが求められます。「かわいそう」「貧しい」といった感情だけで接すると、無意識の差別や上から目線の関わり方になってしまう恐れがあります。

大切なのは、目の前にいる人をひとりの対等な存在として尊重することです。助ける側・助けられる側という構図ではなく、共に生きる社会の一員として関わる姿勢が信頼を育みます。

また、訪問で得た経験を自分の言葉で発信することも大切なアクションです。行動につながる「共感」が、支援の輪を広げる第一歩になります。

 

スラム街問題への私たちの関わり方

スラム街の問題は、遠い国の特別な出来事ではなく、私たちの暮らす世界の一部として考えるべき課題です。都市の発展と裏腹に取り残される人々の存在は、経済や環境、教育といったあらゆる分野と密接につながっています。

支援の方法と参加の仕方

 

スラム街への支援は、特別なスキルがなくても始められることが多くあります。最も身近な方法は、信頼できる団体への継続的な寄付やチャイルドスポンサー制度の利用です。たとえば、ワールド・ビジョン では月々4,500円で1人の子どもの教育・保健・生活支援を行えます。

日本国内でできることとしては、団体のイベントやスタディツアーへの参加、物資の寄贈、寄付付き商品の購入なども有効です。
重要なのは、「関わり方を一つに決めつけず、自分の暮らしに合わせた無理のない形で継続すること」。支援は、長く続くほど価値が増すものです。

情報発信の重要性

 

スラム街の現状は、多くの人にとってまだ「知らない世界」です。だからこそ、知った人がその体験を言葉にして広めていくことが支援の第一歩になります。訪問経験者のブログ、SNS投稿、学生による講演会などは、他の人が関心を持つきっかけになり、支援の輪を広げる力を持ちます

まとめ

フィリピンのスラム街は、急速な都市化や制度的な不備によって生まれた、社会の構造的な課題を映す鏡です。マニラやセブに広がるスラムでは、教育・衛生・治安といった多くの面で人々が困難な生活を強いられています。

しかし、その中でも支援団体や住民の努力によって、希望や変化の芽は着実に育っています。私たち一人ひとりが、現実を知り、共感し、自分なりの方法で関わることで、その変化を後押しすることができます。

大切なのは、「何かしなければ」と焦ることではなく、無関心を超えて、関心を持ち続ける姿勢です。
小さなアクションでも、それが未来を変えるきっかけになるかもしれません。

 

update: 2025.5.11