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持続可能な農業とは?|日本政府や企業、海外の取り組みを具体例を用いて解説!

update: 2025.5.4

近年、環境問題や食料安全保障の課題が深刻化する中で、持続可能な農業への関心が高まっています。限りある自然資源を守りながら、安全で安定した食料供給を実現するために、各国はさまざまな取り組みを進めています。ここでは、持続可能な農業の重要性と、具体的な取り組み事例について紹介します。

 

持続可能な農業とは?|日本政府や企業、海外の取り組みを具体例を用いて解説!

 

持続可能な農業とは

持続可能な農業の概要

 

持続可能な農業(Sustainable Agriculture)とは、環境に配慮しながら、長期的に安定した農業生産を維持し、経済的にも成り立ち、人々の食料需要を満たす農業のことを指します。これは単なる「環境に優しい農業」ではなく、環境・経済・社会のバランスを考慮しながら、持続的な農業システムを確立することを目指します。

 

持続可能な農業とSDGs

SDGsとは、持続可能な開発目標「Sustainable Development Goals」のことを指します。2015年に国際連合で、世界の持続可能な開発のための指針として採択されました。

このSDGsと「持続可能な農業」には深い関連があります。SDGs2の目標は、飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進することであると示されています。「持続可能な農業」は、一国が取り組むべきことではなく、世界全体で目指すべき目標です。

 

SDGsについてさらに知りたい方はこちら

SDGs(持続可能な開発目標)とは?17の目標について解説! | マガジン | Social Act Career

 

持続可能な農業のメリット・デメリット

 

持続可能な農業には「環境保護・経済的安定・社会的発展」という大きなメリットがある一方で、短期的なコストや導入の難しさというデメリットもあります。しかし、技術の発展や市場の成熟によって、今後はより導入しやすくなる可能性があります。持続可能な農業は長期的な視点で考えることが重要 です。

スマート農業のメリット・デメリット
観点 メリット デメリット
環境 ・土壌・水資源の保護
・生物多様性の保全
・肥料や農薬を減らすことによる収量の一時的減少
経済 ・長期的な生産・収益の確保
・商品の付加価値向上
・設備や技術の導入コストが高い
・作業の手間が増え人件費が上昇する可能性
社会 ・安全・安心な農産物の提供
・地域経済の活性化
・現状の市場規模が小さい
技術 ・生産効率の向上
・気候変動の影響を軽減
・新技術の開発に膨大な資金と時間が必要

 

持続可能な農業の具体例

 

農業廃棄物の再利用

 

農業廃棄物の再利用とは、農作物の残渣(ざんさ)、家畜のふん尿、食品加工の副産物などを活用して、資源を循環させる仕組みです。廃棄物をただ処理するのではなく、堆肥やエネルギー源として再利用することで、環境負荷を減らしつつ農業の持続可能性を高めることができます。具体例として以下のようなものがあります。

 

  • 稲わらを牛のエサに利用する
  • 動物のふんを発酵させて有機肥料にする
  • 落ち葉を発酵させて土壌改良材にする
  • 果物の皮を堆肥にする

 

有機農業の促進

 

有機農業(オーガニック農業)とは、化学肥料や農薬を使わずに、自然の生態系を活かして農作物を生産する農業のことです。土壌の健康を守り、環境に配慮しながら、持続可能な農業を目指す方法の一つです。

 有機農業の市場規模は日本だけでなく世界でも拡大傾向にあり、今後もさらに大きくなることが予想されます。

参考:有機農業をめぐる事情

 

生物多様性の保全

 

持続可能な農業と生物多様性は密接な関係があります。持続可能な農業は、 生態系を守りながら食料生産を行うことを目的とし、その過程で生物多様性の保全が重要な役割を果たします。反対に、生物多様性が豊かであれば、持続可能な農業の実現もしやすくなります。これは、土壌微生物やクモなどの益虫の働きが、肥沃な土壌作りや害虫の駆除を助けていることを示します。

農地・水資源の保全・維持

 

農地は、作物を育てるための土台となる資源であり、また農業は、地球上で最も水を使用する産業で、全体の約70%の水資源を消費しています。。しかし、 不適切な水の利用や過度な農業活動は以下の問題が発生します。

 

  • 過剰な耕作による土壌の養分不足
  • 森林破壊による土壌の流出・砂漠化リスク
  • 農薬や化学肥料による水質汚染
  • 水のつかいすぎによる地下水の枯渇

 

持続可能な農業を通じて農地(土壌)と水資源の保全に貢献し、それによって安定した食料生産と環境の維持が可能になります。

 

再生可能エネルギーの利用

 

持続可能な農業は、環境負荷を抑えつつ長期的に安定した農業を実現することを目指します。そのためには再生可能エネルギーの活用も重要な要素となります。太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーは、化石燃料に頼らず環境負荷を抑えることができ、持続可能な農業の実現に不可欠な役割を果たします。

持続可能な農業と再生可能エネルギーを組み合わせることで、以下のようなポジティブな影響を生み出します。

再生可能エネルギーの農業への活用
取り組み 効果・メリット
再生可能エネルギーの活用 持続可能な農業への貢献
電力供給の自給自足 農場の電気コストを削減
温暖化ガスの削減 CO₂排出量を抑え、気候変動対策に貢献
農業廃棄物の活用 廃棄物のエネルギー化
エネルギーの安定供給 災害時でも農業活動を継続可能

スマート農業

 

スマート農業とは、IoTやAI、ロボット技術などを活用し、農業の効率化・最適化を目指すものです。スマート農業の技術を活用することで、持続可能な農業の実現を加速することができます。以下のような取り組みがあります。

 

  • 温度・湿度センサーを設置し、リアルタイムなデータによる最適な農場管理
  • AIを活用して作物の画像を解析し、病害虫の発生を予測する
  • 土壌水分センサーを活用し、必要なタイミングでのみ水を供給する
  • ドローンで農地を空撮し、必要な場所にピンポイントで農薬や肥料を散布する

 

スマート農業についてさらに知りたい方はこちら

スマート農業とは?|国内や海外で導入されている事例を具体例を用いて解説!

 

日本政府における「持続可能な農業」への取り組み

優良地域の紹介|持続性の高い農業に関する事例集

 農林水産省は、持続可能な畜産物生産を推進するため、環境負荷の低減や耕畜連携などの取り組み事例をまとめた資料を公開しています。主な内容は以下の通りです。

ああ

  • 環境負荷低減の取り組み:畜産現場での排泄物管理や臭気対策など、環境への影響を最小限に抑えるための具体的な方法を紹介
  • 耕畜連携の推進:畜産業と耕種農業が連携し、資源を循環利用することで、持続可能な農業生産を実現する事例が掲載されている

 これらの事例集は、持続可能な農業の実践に役立つ情報を提供しています。

 

参考:農林水産省:持続性の高い農業に関する事例集 (減化学肥料・化学農薬編)

   農林水産省:持続性の高い農業に関する事例集 (有機農業編)

 

最新技術の紹介|「みどりの食料システム戦略」技術カタログ

 

「みどりの食料システム戦略」とは、農林水産省が2021年に発表した持続可能な農業・食料生産の実現を目指す戦略であり、2050年までの長期的な目標を掲げています。この技術カタログでは、農業・畜産業を対象とし、近年開発された技術(現在普及可能な技術)と、近い将来、利用可能となる開発中の技術を、農業に携わる関係者に向けて紹介しています。

また、農林水産省が運営するYouTubeチャンネルでは、「みどりの食料システム戦略」技術カタログに掲載されている技術の一部を、映像として見ることができます。

 

YouTubeの一例:Try for Tomorrow ナシ黒星病の被害軽減 精度の高い落葉処理技術

参考:「みどりの食料システム戦略」技術カタログ:農林水産省

 

日本企業における「持続可能な農業」への取り組み

 

持続可能な農業の取り組み例①株式会社クボタ

 

株式会社クボタは、持続可能な農業の実現に向けて、スマート農業技術の推進、環境負荷の低減、食料生産の効率化に取り組んでいます。これから先の未来に予想される世界的な食料不足と農業労働人口の減少という課題に対して、それぞれの地域・国で活躍する農家の事情に合わせた製品の開発・製造を続けています。

長期ビジョン「GMB2030」を掲げ、2030年までに「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」となることを目指しています。具体的には、自動運転トラクターやAI・IoTを活用した精密農業、再生可能エネルギーを活用した農業機械の開発などを進めています。

 

参考:食料分野での取り組み | サステナビリティ | 株式会社クボタ

持続可能な農業の取り組み例②株式会社坂ノ途中

 

株式会社坂ノ途中は、環境負荷の小さい農業を普及させることを目指し、2009年に設立された企業です。環境負荷の小さな農業に取り組む人たちを増やし、100年先も続く農業を目指し、以下の様な取り組みを実施しています。

 

  • 農産物の販売

400件を超える提携農家が栽培した季節の野菜や果物を、個人向けのオンラインショップや飲食店、小売店に提供しています。

  • 店舗運営

京都市内に「坂ノ途中soil」や「本と野菜 OyOy」といった店舗を展開し、オーガニックやエコ農業に取り組む生産者と消費者をつなぐ場を提供しています。

  • システム/サービスの開発

環境負荷の小さい農業の営農ハードルを下げるための自社開発ウェブサービスや、飲食店や小売店向けのオンライン注文サービスなどを進めています。

 

参考:コーポレート | 坂ノ途中 | 100年先もつづく、農業を。

 

持続可能な農業の取り組み例③カゴメ株式会社

 

カゴメ株式会社は、農業を通じて「自然の恵み」を活かし、持続可能な事業を展開してきました。農村の生物多様性は、人々の健康や文化的豊かさを支える重要な要素ですが、近年、環境負荷の増大や農業従事者の減少により、その生物多様性が危機に瀕しています。

このような課題に対応するため、カゴメ株式会社は「カゴメグループ生物多様性方針」を定めました。トマトやその他の野菜の遺伝的多様性の保全や、農地・周辺環境の生態系保全、工場での環境負荷低減を目指し、カゴメグループ全体で様々な取り組みを進めています。

 

参考:持続可能な農業|カゴメ株式会社

海外で実践される「持続可能な農業」への取り組み

 

オランダの持続可能な農業の事例

オランダは、持続可能な農業の先進国として知られ、世界中から注目されています。九州とほぼ同程度の国土面積であるにもかかわらず、その面積のうちの半分近くを農地が占めます。さらに驚くべきことに、オランダの農畜産物輸出額はアメリカに次ぐ世界第2位となっています。オランダの「持続可能な農業」には以下のような特徴的な取り組みが行われています。

 

  • 農業研究と教育機関の充実

オランダの「ワーヘニンゲン大学(WUR)」は、世界トップクラスの農業研究機関として知られており、企業・政府・農家と連携して持続可能な農業技術の開発を行っています。

  • 政府の政策支援

オランダ政府は、「農業生産の最大化ではなく、環境負荷を抑えつつ効率を最適化する」という方針を掲げ、スマート農業や循環型農業への投資、環境に優しい技術の導入を推奨しています。

 

フランスの持続可能な農業の事例

 

フランスは伝統的な農業大国のイメージがありますが、第二次世界大戦後の「栄光の30年」といわれる高度成長時代においては、大量の農薬と化学肥料が用いられました。これにより土壌や水質の汚染が深刻化したことから、環境に配慮した農業に対する関心が高まった背景があります。

農業を持続可能な産業としていくために、以下のような取り組みが行われています。

 

  • アグロエコロジー(自然の生態系を活用した農業)の推進
  • 有機農業の拡大
  • 食品ロス削減の取り組み
  • 政府からの補助金

まとめ

 

持続可能な農業は、環境負荷の軽減生物多様性の保全、そして農業の安定的な発展を同時に目指す取り組みです。オランダやフランスをはじめとする各国の先進的な事例や、日本が今進めている取り組みから、テクノロジーの活用や地域資源の循環利用が重要であることが分かります。

今後、持続可能な農業をさらに普及させるためには、政府・企業・消費者が連携し、環境に配慮した食の選択を心がけることが求められます。私たち一人ひとりの行動が、未来の豊かな食料環境を支えることにつながります。

update: 2025.5.4