
スマート農業とは?|国内や海外で導入されている事例を具体例を用いて解説!
update: 2025.5.4
かつて“勘と経験”に頼っていた農業が、今、データやAI、ロボットの活用で大きく進化しようとしています。気候変動、担い手不足、食料問題など、地球規模で発生しているさまざまな社会課題に立ち向かう“スマート農業”の最前線を、わかりやすく紹介します。
Contents
スマート農業とは?|国内や海外で導入されている事例を具体例を用いて解説!
スマート農業とは
スマート農業の概要
スマート農業とは、ICT(情報通信技術)やAI、ロボット技術などの先端技術を活用して、農業の効率化・高品質化・省力化を図る取り組みのことを指します。スマート農業には以下のような特徴があります。
- データで管理する農業
気温・湿度・土壌水分量などのセンサ-データを用いて作物の状況をリアルタイムで把握する
- ロボットやドローンの導入
自動運転のトラクターや田植え機が人の代わりに作業する
- AIで未来を予測
病害虫の発生を予測したり、収穫の最適時期をAIが農家にアドバイス
- 労働力不足を補う
高齢化や人手不足が深刻な中、省力化で誰でも農業を続けやすくする
参考:スマート農業:農林水産省
スマート農業が求められる社会的背景
近年、日本では農業従事者の高齢化・担い手不足が大きな社会問題として取り上げられています。これも、日本でスマート農業が求められる背景の1つです。しかし、その背景は1つではなく、地域によって、国によって、様々な問題が存在します。
一例として、気候変動への対策、農業従事者の高齢化、食料の安定供給を目指すことなどが挙げられます。

スマート農業のメリット・デメリット
日本国内でも、海外でも、スマート農業の導入は加速的に進んでいます。人手不足や気候変動への対策として前向きに捉えられることが多いスマート農業ですが、一方でデメリットも存在します。
スマート農業のメリット
1. 省力化・効率化
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自動化や遠隔操作により、高齢者や少人数でも効率的に作業が可能
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作業負担の軽減や人手不足への対応にも有効
2. 生産性・品質の向上
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センサーやAIを活用し、最適な栽培環境を実現
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無駄やロスを減らし、データに基づく判断で安定した品質を維持
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経験が浅くても取り組みやすく、初心者にもやさしい農業が可能
3. 遠隔管理の実現
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農地に行かなくても、スマートフォンやパソコンで作物の状況を確認・操作できる
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離れていてもタイムリーな対応が可能で、管理の自由度が高まる
4. 持続可能な農業への貢献
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水や肥料、エネルギーの使用を抑えることで、環境負荷を軽減
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気候変動や資源不足に対応した、未来を見据えた農業の形
スマート農業のデメリット
1. 導入コストが高い
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機器やシステムの購入・設置に大きな初期費用がかかる
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小規模農家にとっては負担となるケースもある
2. ITスキルが必要
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機械やアプリの操作に慣れていないと、活用が難しい場合がある
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高齢の農業従事者にとってはハードルが高く感じられることも
3. インフラ環境に左右される
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山間部や過疎地では、電波や電力が不安定な場合がある
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安定した通信・電力環境の整備が前提となる
4. 故障時の対応が難しい
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高度な技術を使用しているため、トラブル時には専門的な知識が必要
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メンテナンスやサポート体制の整備が不可欠
5. 普及・導入の障壁がある
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新しい技術に対する抵抗感や不安が、導入を妨げることがある
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現場への理解促進や実証実験の積み重ねが求められる
スマート農業の具体例
農業機械の自動化
農業機械の自動化は、スマート農業の中核を担う技術の一つです。GPSやAIを搭載したトラクターや田植え機などが、作業者が乗らなくても正確に畑や田んぼを走行し、耕うん・播種・施肥・収穫といった作業を自動で行うことができます。
これにより、高齢の農業者でも負担を軽減し、作業の効率化と精度の向上が可能になります。

農業用ドローン(農薬散布など)
農業用ドローンは、空から農作業を支援するスマート農業の代表的な技術です。ドローンにはカメラやセンサーが搭載されており、作物の生育状況を上空からモニタリングしたり、病害虫の発生状況を解析したりできます。
スマートフォンやタブレットで操作が可能なドローンも多く開発されており、若手農家の間ではその使いやすさから、特に導入が進んでいます。
アシストロボット
アシストロボットは、農作業の負担を軽減するために開発されたサポート型のロボットです。重い農機具の運搬、収穫物の積み下ろし、畝(うね)の間の移動など、体にかかる負担が大きい作業を補助することで、農作業の安全性と効率を向上させます。
特に高齢者や女性農業者の作業支援として注目されており、農業の担い手の多様化にもつながる技術です。
栽培情報のデータ化
栽培情報のデータ化は、農作業や作物の状態を数値や記録として可視化する取り組みです。温度・湿度・土壌水分・日射量などの環境データや、播種・施肥・収穫といった作業の記録をデジタル化することで、作業の見える化と栽培管理の最適化が可能になります。これにより、勘や経験に頼らない客観的な判断ができるようになり、農業の効率化と技術の継承にもつながります。
株式会社クボタでは、農業分野での課題解決に向けたアプローチの1つとして「データ活用による精密農業」を掲げています。栽培情報をデータ化することで、誰でも簡単に高品質な農産物の生産が可能になる未来を目指します。
参考:スマートアグリソリューション | イノベーション | 株式会社クボタ

再生可能エネルギーの利用
再生可能エネルギーの利用は、環境にやさしいスマート農業を実現するうえで重要な取り組みです。特に、太陽光やバイオマス、風力といった自然の力を活用することで、農業現場のエネルギー自給率を高め、CO₂排出の削減にもつながります。以下にスマート農業分野での活用が期待される再生可能エネルギーの一部を紹介します。
- 太陽光発電
ビニールハウスや施設の屋根に設置して、灌水ポンプや換気扇の電力をまかなう
- 風力発電
沿岸部など風の強い地域で、小型風力機を用いて農機や設備の電力に活用
- バイオマスエネルギー
農業廃棄物や家畜ふん尿を燃料として、暖房や発電に利用する
- 蓄電システムとの併用
発電した電力を蓄電池にためて、夜間や曇天時にも使用可能に
このような再生可能エネルギーの導入によって、農業は環境負荷の少ない持続可能な産業として進化していきます。
ビックデータの活用
ビッグデータの活用は、スマート農業における高度な判断や効率的な農業経営を支える重要な要素です。センサー・ドローン・衛星・農機などから収集された大量のデータを統合・分析することで、これまで見えなかった「農業のパターン」や「最適なタイミング」が明らかになります。
- 広域な気象データから作業計画を最適化
- 市場価格を見極め、生産と流通のコントロールを行う
など、ビッグデータを活用することで「今、なにを、どのくらい生産すると良いか」を科学的に予測することができます。

日本国内におけるスマート農業の取り組み事例
栃木県で進むスマート農業
栃木県では、スマート農業の導入に積極的に取り組んでおり、地域の特性や課題に応じた多様な実証プロジェクトが展開されています。栃木県の農業が、成長産業として持続的に発展し続ける環境の実現を目指し、AIやIoT、ロボット、センシング技術、ドローン等の先端技術を活用した「スマート農業とちぎ」に取り組んでいます。
実施された多くのプロジェクトは、以下から動画で視聴することができます。
参考:スマート農業とちぎ
ヤンマーホールディングス株式会社
ヤンマーホールディングス株式会社では、最先端の農業機械とデータ取得・運用を考えたシステムで、省力化・高能率化・高精度化の実現を目指しています。様々な特色ある取り組みが行われており、以下にその一例を紹介します。
- 自動運転農機「SMARTPILOT」シリーズ
ロボットトラクターや自動操舵田植機などがあります。位置情報データや高度なロボット技術を活用して、高精度な作業の実現を目指します。
- 農業IoTサービス「SMARTASSIST」
農業機械の稼働状況や位置情報をリアルタイムで把握できるIoTサービスです。
これらの情報を活用することにより、農業機械の適切なメンテナンス時期の提案や、過去の作業の振り返り、農業機械の盗難抑止などが期待できます。
- スマート温室「Smart Greenhouse」プロジェクト
温室内の環境を自動で制御するプロジェクトです。このシステムでは、温度、湿度、照度、CO₂濃度などをセンサーで測定し、最適な栽培環境を維持します。これにより、作物の生育を安定させ、新規就農者でも高品質な農産物の生産が可能となります。
参考:ヤンマースマート農業
株式会社農業総合研究所
株式会社農業総合研究所(農総研)は、IT技術を駆使して農産物流通の革新を目指すアグリテック企業です。生産者と消費者を直接つなぐ独自のプラットフォームを構築し、スマート農業の推進に貢献しています。
農総研が開発した専用アプリ「農直」では、農家が出荷先の選定や販売価格の設定、売上管理などを行えます。「農直」以外にも、農家に寄り添う様々なシステムの開発を続けています。
参考:農業総合研究所

スマート農業実証プロジェクト|農林水産省
「スマート農業実証プロジェクト」は、2019年から始まった農林水産省が推進する全国規模の取り組みであり、最先端技術を現場で実証し、実用化と普及を目指すプロジェクトです。
このプロジェクトは、AIやIoT、ロボット技術などを活用し、農業の省力化・高収益化・担い手の育成を図ることを目的としています。特に、地域ごとの作目や課題に応じた実証フィールドを全国に展開し、実際の農作業の中でスマート技術がどのように効果を発揮するかを検証します。
参考:「スマート農業実証プロジェクト」について:農林水産技術会議

海外におけるスマート農業の取り組み事例
アフリカ地域で進むスマート農業
アフリカ地域では、人口増加や気候変動への対応、農業の生産性向上といった課題に対処するため、スマート農業の導入が進められています。日本の国際協力機構(JICA)も、アフリカ各国でデジタル技術を活用した農業支援を展開しています。
また、アフリカ最大の産業である農業において、スマート農業を望む農業従事者は6割を超えており、今後さらにアフリカ農業においてスマート化が加速的に進むことが予測されます。
参考:アフリカ最大の産業の農業にデジタル化の動き | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報 – ジェトロ
オランダで進むスマート農業
オランダは、限られた国土と厳しい自然条件にもかかわらず、世界第2位の農産物輸出国として知られています。その背景には、先進的なスマート農業技術の導入と、産学官の連携による革新的な取り組みがあります。
スマート農業に関する革新的な取り組みの中心には、ワーゲニンゲン大学(WUR)があります。この大学は、農業・食品分野の研究と教育の拠点であり、企業や政府機関と連携して革新的な技術の開発と実証を行っています。また、WURを中心とした地域は「Food Valley」と呼ばれ、世界中から研究者や企業が集まり、持続可能な農業の未来を共に創造しています。
参考:IT融合新産業の具体的例
アメリカで進むスマート農業
アメリカでは、広大な農地と先進的な技術力を背景に、スマート農業(AgTech)の導入が急速に進んでいます。「世界の食料庫」と呼ばれるほどの、世界有数の農業大国アメリカでは、トウモロコシや大豆、小麦をはじめとする穀物や豆類を多く生産し、ほかにも牛乳や牛肉、鶏肉など畜産物の生産も盛んに行われています。以下に、アメリカで注目されるスマート農業の事例を紹介します。
- センサーとGPSを用いた農場全体での温度・湿度等のモニタリング
- GPSやAIを搭載した自動運転トラクターの導入
- 都市型農業として、室内での垂直農法の実施
- ドローンを用いて天敵昆虫を作物上空から散布する「空中生物的防除」
イスラエルで進むスマート農業
イスラエルは、限られた水資源と砂漠地帯という厳しい環境条件を克服するため、革新的なスマート農業技術を発展させてきました。近年では精密農業分野におけるイスラエルのスタートアップと日本の大手企業が、スマート農業分野で出資・業務提携を進めています。
- 株式会社クボタ → SeeTree、Tevelと連携
果樹園において、1本1本の木の健康状態・収量予測をデジタルで見える化する技術や、ドローンを使って果物の自動収穫を行う技術を開発
- 住友商事株式会社・日本電気株式会社(NEC) → CropXと連携
土壌に挿すだけのスマートセンサーとAI解析で、灌水・施肥の最適化を実現する
- 三菱商事・味の素 → Aleph Farms、Supermeatと連携
牛の細胞を培養して作る「本物の肉に限りなく近い人工肉」の開発や、遺伝子組換えを用いず、持続可能かつ動物福祉に配慮した食肉生産技術の開発
参考:気候変動による農業の課題にテクノロジーで挑む(イスラエル) | 地域・分析レポート – 海外ビジネス情報 – ジェトロ

まとめ
スマート農業は、ただの最新技術ではありません。気候変動や労働力不足、そして食料安全保障といった、これからの時代に向き合うための“新しい農業のかたち”です。
データやAI、ロボットといった技術が、農業の現場に寄り添いながら、持続可能な未来を支えようとしています。私たちの食卓に並ぶ作物のひとつひとつが、実はこうした挑戦と工夫の上に育っていることを、少しでも感じてもらえたらうれしいです。
update: 2025.5.4