
日本におけるホームレス問題の現状と原因を解説!支援の課題は?
update: 2025.4.12
日本におけるホームレス問題は、近年、表面的には減少傾向にある一方で、目に見えにくい「見えないホームレス」の存在や、複雑化する背景によって、依然として深刻な社会課題となっています。ホームレス状態に至る原因は、単なる経済的困窮だけではなく、家族との関係悪化や健康問題、社会的孤立など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。また、ホームレス問題は本人だけでなく、治安や公衆衛生、社会的コストの増大といった形で、社会全体にも大きな影響を及ぼしています。
この記事では、日本のホームレス問題について、最新の統計データをもとに現状を整理し、原因や影響、さらに支援における課題や解決への取り組みまでをわかりやすく解説します。
Contents
日本におけるホームレス問題の現状と原因を解説!支援の課題は?
日本のホームレス問題とは
ホームレスの定義
日本における「ホームレス」の定義は、2002年に施行された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に明記されています。
この法律では、ホームレスを以下のように定義しています:
「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所として日常生活を営んでいる者」
(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法 第2条より)
つまり、路上や公園、河川敷など公共の場で寝起きしている人を対象にしています。
ただしこの定義には、以下のようなケースは含まれていません。
- ネットカフェで寝泊まりしている人
- 知人宅を転々としている人
- 不安定な住居(簡易宿泊所、非合法な建物など)に暮らす人
そのため、政府の統計に表れない「見えないホームレス(隠れホームレス)」の存在が、近年大きな課題となっています。
「見えないホームレス」とは
日本のホームレス問題を語るうえで近年注目されているのが、「見えないホームレス(invisible homeless)」の存在です。
これは、路上ではなく、以下のような一見住居があるように見えるが、実際には安定した居住環境がない状態を指します:
- ネットカフェや24時間営業の店舗で寝泊まりしている「ネットカフェ難民」
- 知人の家を転々としている「ソファーサーファー」
- カプセルホテルや簡易宿泊所、車中泊など、正式な住まいと呼べない場所で生活している人々
これらの人々は、法律上の「ホームレス」には該当しないため、公的統計に含まれず、支援も届きにくいという問題を抱えています。
特に都市部では、ネットカフェ難民の存在が社会問題としてたびたび取り上げられており、
東京都が行った調査(2018年)では、都内だけで約4,000人のネットカフェ利用者が「住まいがない状態」であると報告されました。
このように、ホームレスの問題は「見える路上生活者」だけでなく、「見えない不安定居住者」も含めた広い視点で捉える必要があります。
日本のホームレス数の最新データ

日本におけるホームレスの数は、毎年厚生労働省が調査を行い、統計データとして公表しています。
2024年4月に発表された最新のデータによると、全国のホームレスの数は以下の通りです。
- 全国総数:2,820人
- 男性:2,575人(91.3%)
- 女性:172人(6.1%)
- 性別不明:73人(2.6%)
(出典:厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(令和6年)」)
地域別に見ると、ホームレスの多くは都市部に集中しています。
- 大阪府:856人
- 東京都:624人
- 神奈川県:420人
この3都府県だけで、全国の約66%以上を占めており、大都市圏での生活困窮が顕著であることがわかります。
なお、この調査は「目視調査」が中心であるため、前述の「見えないホームレス(ネットカフェ難民など)」は含まれておらず、実際のホームレス状態にある人の数はさらに多いと推測されています。
ホームレス状態に至る主な原因
ホームレスになる背景には、単なる経済的な困窮だけではなく、社会的な孤立や健康問題など、複数の要因が複雑に絡み合っています。ここでは、代表的な原因を整理して紹介します。
ホームレスになる原因① 経済的要因
もっとも多いのは、仕事や収入を失ったことによる住まいの喪失です。派遣社員や日雇い労働など、不安定な雇用形態で働いていた場合、突然の解雇や契約終了によって生活が一変することがあります。また、ワーキングプアと呼ばれる「働いていても生活が苦しい人々」も増えており、家賃を払えなくなった結果としてホームレスになるケースも少なくありません。
ホームレスになる原因② 社会的要因
家庭内の不和や人間関係のトラブル、精神的な不調などもホームレスの引き金になります。たとえば、DVや虐待から逃れてきた人や、家族や友人との縁が切れて孤立した人が、頼れる場所を失って路上に出るという事例もあります。とくに単身高齢者や精神疾患を抱える人は、支援にアクセスしにくく、ホームレス状態が長期化しやすい傾向にあります。
ホームレスになる原因③高齢化と孤立
高齢化も深刻な課題です。高齢になると就労機会が減り、わずかな年金では住居を維持できない人も多くいます。さらに、身寄りがなかったり、長年連絡を取っていない家族しかいない場合、支援を受けるチャンスも少なく、社会的に孤立していきます。そうした結果として、やがてホームレス状態に陥ることがあります。
ホームレス問題は「誰か特別な人」の問題ではなく、働けなくなる、頼れる人がいない、予期せぬ支出があるといったことが重なるだけで、誰にでも起こり得るものです。
ホームレス問題の影響

ホームレス問題は、当事者本人の生活に深刻な影響を与えるだけでなく、地域社会や国全体にもさまざまな悪影響を及ぼします。ここでは代表的な影響を2つの観点から解説します。
ホームレス問題の影響①【治安・公衆衛生への影響】
路上や公園などで生活せざるを得ない状況では、衛生環境が極端に悪化します。清潔な水やトイレを使うことができず、食べ物も不安定なため、感染症や栄養失調などの健康リスクが高まります。ゴミの放置や不衛生な環境は、地域の住民にとってもストレスとなり、苦情や摩擦の原因になることもあります。
また、ホームレス状態にある人が暴力や差別の対象になる事件も少なくありません。逆に、生活苦から窃盗や軽犯罪に関与せざるを得ないケースもあり、治安悪化と社会的孤立が相互に悪循環を生むこともあります。
ホームレス問題の影響②【社会的コストの増大】
ホームレス問題は、医療・福祉・治安などの面で行政にも大きな負担をもたらします。たとえば、住まいがないことで健康状態が悪化し、緊急医療を繰り返し受けるケースがあり、その費用は公的医療保険によって賄われます。生活保護の申請や支援施設の整備、支援スタッフの人件費なども含めると、自治体や国の財政にとって無視できない社会的コストとなります。
また、長期的に見れば、ホームレス状態にある人々が働く機会を失ったままでいることは、労働力人口の低下や経済活動の縮小にもつながりかねません。
ホームレス問題の解決が難しい理由

ホームレス状態にある人への支援は、各自治体や民間団体によって行われていますが、それでも問題の根本的な解決には至っていません。その理由は、単に「お金を与えれば済む」という話ではなく、個人・社会・制度の複数の課題が絡み合っているためです。
【個人要因】複合的な困難を抱えている
ホームレス状態にある人の多くは、失業や経済的困窮だけでなく、精神疾患や依存症、障害、トラウマなど、複数の課題を同時に抱えている場合があります。こうした複雑な事情により、就労や住居支援を受けてもすぐに自立することが難しく、支援が一時的なものにとどまりがちです。
【社会要因】「自己責任論」と偏見
「ホームレスは怠けているから自業自得」といった誤解や偏見が、今なお根強く存在しています。そのため、社会全体での理解や協力が得にくく、支援活動への共感が広がりにくい状況です。また、本人が偏見や差別を恐れて支援を拒んでしまうケースもあり、支援の手が届かないという課題もあります。
【経済要因】貧困と格差の拡大
非正規雇用の増加や物価上昇、社会保障制度の負担増など、現代社会における経済環境の変化も、ホームレス問題の背景にあります。特に、最低限の生活費すら賄えない層が増加する中で、ホームレス状態に陥るリスクはより多くの人に及んでいます。
【制度要因】福祉制度の利用の難しさ
生活保護や自立支援制度など、公的な支援は存在していますが、それを利用するには「自分から申請する」必要があります。しかし、必要な情報を知らなかったり、申請に必要な書類(身分証明書や住民票など)を持っていなかったりすることが多く、制度の壁に阻まれて支援にたどり着けない人が多くいます。
このように、ホームレス問題の解決には単なる金銭支援だけでなく、生活・医療・人間関係・制度利用を含めた包括的な支援体制が求められています。
ホームレス支援のための主な取り組み
ホームレス問題に対しては、行政・民間団体・市民による多様な支援活動が展開されています。ここでは、主に「公的支援」と「民間支援」に分けて紹介します。
国や自治体の支援
日本では、2002年に施行された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき、国と自治体が連携してホームレスの自立支援に取り組んでいます。主な内容は以下の通りです。
- 一時的な宿泊施設の提供(更生施設や緊急一時保護センターなど)
- 就労支援(職業訓練や紹介、作業体験など)
- 健康管理・医療の提供(無料診療、健康相談など)
- 生活保護の申請サポート
自治体によっては、専門の相談員を配置し、本人の状況に合わせた個別支援を実施しているところもあります。ただし、支援の質や範囲には地域差があり、十分な対応が行き届かないケースも少なくありません。
(参考:厚生労働省「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」)
民間団体の取り組み
NPO法人やボランティア団体など、民間による支援活動もホームレス支援において大きな役割を果たしています。代表的な活動内容としては次のようなものがあります。
- 炊き出しや衣類・日用品の配布
- 路上での声かけや相談支援
- 医療・法律・福祉に関する専門的サポート
- 就労・住居の確保に向けた伴走型支援
民間団体の支援は、より柔軟かつ個別ニーズに寄り添った対応が可能であり、制度の隙間を埋める存在としても重要です。一方で、多くの団体は資金や人手が限られており、活動の継続や拡充には課題もあります。
このように、公的機関と民間の取り組みが補完し合うことで、ホームレス状態にある人々の支援が成り立っています。
ソーシャルビジネスによるホームレス支援の事例
近年では、NPOや企業が主体となって、ビジネスの手法を用いながら社会課題を解決しようとする「ソーシャルビジネス」が注目を集めています。ホームレス支援の分野でも、収益性と社会性を両立させた取り組みが生まれています。
株式会社Relightの取り組み
Relightは、ホームレス状態にある人々に「住まい」と「仕事」の両方を提供することを目的としたソーシャルビジネスです。代表的なサービスには以下のようなものがあります。
- 「いえとしごと」:住まいと仕事をパッケージで提供する仕組み
- 「コシツ」:ホームレス経験者向けに小さな個室と雇用をセットで提供する短期支援プログラム
Relightは、「一時的な保護」ではなく、継続的な生活基盤の構築を目指しており、生活・就労・居住を一体で支援する体制を整えています。自治体や他団体との連携も積極的に行い、支援の社会モデルとして注目されています。
(株式会社Relight:https://relight-borderless.com/?utm_source=chatgpt.com)
認定NPO法人Homedoorの取り組み
Homedoorは、大阪を拠点に活動するNPOで、ホームレス状態にある人や生活困窮者の自立支援に特化した事業を展開しています。特に有名なのが、**レンタサイクル事業「HUBchari(ハブチャリ)」**です。
- HUBchariは、ホームレス当事者に自転車整備や管理などの仕事を提供し、収入の確保と社会参加の機会を同時に実現しています。
- 就労支援に加え、一時的な住居提供や生活相談、役所手続きの同行支援など、多角的な支援を行っています。
Homedoorの特徴は、当事者が「支援される側」ではなく「社会の一員として活躍できる側」になれる支援設計にあります。彼らの活動は全国に広がりを見せており、各地の自治体とも連携が進められています。
このようなソーシャルビジネスは、行政支援だけでは補えない部分を柔軟かつ持続可能な形でカバーする存在として、今後のホームレス支援において重要な役割を担っています。
(認定NPO法人Homedoor:https://www.homedoor.org/)
ホームレス問題解決のために私たちにできること

ホームレス問題は、行政や支援団体だけが取り組むべき課題ではありません。私たち一人ひとりができる小さな行動の積み重ねが、社会全体の意識を変える大きな力になります。
正しい知識を持つ
まず重要なのは、ホームレスに関する誤ったイメージや偏見をなくすことです。「怠けている」「働く気がない」といった先入観ではなく、なぜその状況に至ったのかという背景や構造的な問題に目を向けることが求められます。
寄付・クラウドファンディングへの参加
ホームレス支援を行っている団体の多くは、寄付によって活動を維持しています。大きな金額でなくても、継続的な少額寄付や単発のクラウドファンディング支援は大きな力となります。自分の生活に無理のない範囲で支援に参加することが可能です。
ボランティア活動への参加
時間に余裕がある人は、炊き出しや物資配布、支援イベントのスタッフとしてボランティアに参加することも選択肢の一つです。現場に触れることで、ニュースやネットの情報ではわからないリアルな状況を知ることができます。
情報発信・啓発
SNSやブログ、日常の会話を通じて、ホームレス問題の正しい情報や現状を周囲に伝えることも効果的です。関心を持つ人が増えることで、偏見のない社会的理解が広がり、支援の輪が広がっていきます。
ホームレス問題は、特別な誰かの話ではありません。不安定な雇用や健康問題、家族関係の変化など、誰もが直面しうるリスクです。だからこそ、他人事にせず、自分ができることから始める意識が大切です。
まとめ
日本のホームレス問題は、目に見える路上生活者だけでなく、ネットカフェや簡易宿泊所で暮らす「見えないホームレス」の存在など、表面化しにくい形で広がっています。その背景には、失業や非正規雇用といった経済的な困難だけでなく、家族関係の断絶や病気、社会的孤立といった複雑な要因が重なっており、単純な解決が難しい構造的な問題です。
この問題は、当事者だけでなく、治安・公衆衛生・社会的コストなどの面で社会全体にも影響を及ぼしています。行政や民間団体による支援は進んでいるものの、制度の壁や支援の届きにくさといった課題も依然として存在しています。
近年では、RelightやHomedoorといったソーシャルビジネスによる支援が注目されており、住まいや仕事を通じてホームレス状態からの自立を後押しする新たな仕組みも生まれています。
そして、私たち一人ひとりにもできることがあります。正しい知識を持ち、偏見をなくすこと。寄付やボランティアを通じて支援の輪に加わること。社会の一員として、この問題に向き合う姿勢が、より良い社会をつくる第一歩になるはずです。
update: 2025.4.12