
スマートシティがもたらす新たな価値とは?スマートシティの基盤技術と国内外の事例を徹底解説
update: 2025.3.9
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スマートシティがもたらす新たな価値とは?スマートシティの基盤技術と国内外の事例を徹底解説
人口増加や環境問題、交通渋滞、エネルギー不足など、都市が直面する課題は年々深刻化しています。これらの課題を解決し、より住みやすい都市を実現するために注目されているのがスマートシティの概念です。本記事では、スマートシティの具体的な技術や導入事例を紹介し、その可能性を探ります。
スマートシティとは
スマートシティの定義
新しい技術や暮らしを便利にする技術をまちづくりに採用する取り組みは、全国各地で行われています。私たちは「スマートシティ」という言葉を聞いて、まだ見ぬ未来をぼんやりと想像しがちですが、政府は「スマートシティ」を以下のように定義しています。
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グローバルな諸課題や都市や地域の抱えるローカルな諸課題の解決、また新たな価値の創出を目指して、ICT 等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、社会、経済、環境の側面から、現在および将来にわたって、人々(住民、企業、訪問者)により良いサービスや生活の質を提供する都市または地域
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参考:スマートシティ – Society 5.0 – 科学技術政策 – 内閣府
スーパーシティとの違い
先端技術を用いて地域の課題を解決していく取り組みのことをスマートシティと言いますが、これと似たキーワードとして、「スーパーシティ」があります。ここでは、目的と法律面から見た違いから、2つのキーワードを解説します。
目的 | 法律面 | |
スマートシティ | ICTなどの先端技術を用いた業務の効率化 | 法律による活動制限等の縛りはない |
スーパーシティ | 住民や地域の課題解決(先端技術の活用はあくまで手段の1つ) | 2020年の国家戦略特別区域法改正において設定
特定地域の法律などの規制緩和も同時に行う |
スマートシティの構成要素
スマートシティはその地域の住民だけで完結するものではありません。その地域で生活する住民の周りに様々なサービスが生まれ、これらのサービスをより効率的に運用するための先端技術等が用いられます。

参考:スマートシティ – Society 5.0 – 科学技術政策 – 内閣府
スマートシティ入門書「スマートシティガイドブック」
内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省では、スマートシティに取り組む地方自治体を支援するため、スマートシティガイドブックを発行しました。先行してスマートシティに取り組む地域の事例等を踏まえつつ、スマートシティの意義、必要性、導入効果、及びその進め方についてまとめました。これは、スマートシティに関する知識全般について、広く情報を網羅した1冊であることから、スマートシティの入門書と言われています。
スマートシティが注目される理由
スマートシティ構想は、その地域の課題解決を目的として進んでいきます。スマートシティが注目される理由は、近未来的でかっこいいからだけではなく、その地域を利用するさまざまな人々や環境に価値を与えることが最大の要因です。
スマートシティ構想が地域住民にもたらす価値
スマートシティ構想によるまちづくりは、住民の生活の質(QoL: Quality of Life)を向上させることができます。
〇快適な生活環境:交通渋滞の緩和、効率的なエネルギー利用
〇医療・福祉サービスの向上:オンライン診療、データを活用した予防医療
〇まちの安全性の向上:AIを活用した防犯カメラ、スマート街灯
〇行政のデジタル化:電子申請、AIチャットボットによる質問対応 など
スマートシティ構想が観光客にもたらす価値
スマートシティ技術は、その地域を訪れた観光客に対して、大きな満足感を提供します。
〇スマート交通:公共交通のリアルタイムな情報提供
〇多言語対応:翻訳アプリやデジタルサイネージでの観光案内
〇キャッシュレス決済:QRコード決済などを含む電子決済の拡充
〇特別な観光体験:データ分析によるおすすめ観光ルートの提示 など
スマートシティ構想が地元企業にもたらす価値
スマートシティ構想を進める地域では、地元企業にもメリットをもたらし、地域経済の活性化が期待できます。
〇デジタルマーケティング:IoTやAIを活用した購買データの分析
〇ビジネスチャンスの拡大:ITを活用した新規事業の創出
〇スマート物流の実現:ドローン配送、自動運転車による物流効率化
〇省エネルギー化・コスト削減:エネルギーのムダを見える化・最適化 など
(loTとは:IoT(Internet of Things)とは、あらゆるモノがインターネットにつながり、データを相互にやり取りする技術や仕組みのこと)
スマートシティ構想が地域環境にもたらす価値
スマートシティでは、環境負荷の低減を目的として新たな技術の導入が進み、持続可能な社会の実現を目指します。
〇エネルギー効率の向上:再生可能エネルギーの活用
〇カーボンニュートラルの推進:ゼロエミッション都市計画
〇廃棄物管理:スマート収集システムによるごみ分別の促進
〇大気・水質管理:IoTセンサーを活用した環境モニタリング など
ゼロエミッションに関しては、こちらで詳しく解説しています。
官民連携で進めるスマートシティ構想

スマートシティ官民連携プラットフォームとは
2019年、内閣府はスマートシティの実現に向けて、自治体、企業、大学・研究機関などが連携し、情報共有や意見交換を行う場として「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を設立しました。
このプラットフォームは、関係府省12団体、経団連等の3つの経済団体などを含む計973つの団体から構成されています。団体会員へのサポートとして、
①事業支援
②分科会
③マッチング支援
④普及促進活動
などを実施します。
スマートシティを形成する科学技術
スマートシティでの豊かで便利な生活は、様々な科学技術によって成り立っています。ここでは、スマートシティを形成する科学技術の一部を抜粋して紹介します。ここで紹介する科学技術だけではなく、様々な先端技術が複雑にかみ合わさることで、未来の新しい当たり前が形作られます。

IoT技術
IoTは、あらゆるモノ(センサーやデバイス)がインターネットにつながり、データを収集・共有する技術です。スマートシティでは、都市全体のリアルタイムデータを収集し、住民の利便性向上や資源の最適利用を実現します。具体例として以下のようなものが挙げられます。
〇スマート街灯
周囲の明るさや人の動きを感知し、必要なときだけ点灯することで省エネを実現
〇スマートホーム
スマートロックやエアコン自動制御など、家電をIoT化
AI
AIは、大量のデータを分析し、パターン認識、予測、最適化などを行う技術です。スマートシティでは、都市管理や住民サービスの高度化に役立ちます。具体例として以下のようなものが挙げられます。
〇行政サービスの最適化
チャットボットによる住民対応、AIを用いた市民からの要望分析
〇交通管理
交通量のリアルタイム解析により渋滞を緩和するナビゲーションを提供
自動化技術
自動化技術は、人間が行っていた作業を機械やソフトウェアが自律的に行う技術です。スマートシティでは、インフラ管理や交通、物流の効率化に貢献します。具体例として以下のようなものが挙げられます。
〇自動倉庫・物流システム
ロボットが倉庫内の荷物を仕分け・搬送
〇自動運転バス・タクシー
公共交通の無人化・最適化による移動の利便性向上
通信技術(5Gなど)
スマートシティでは、データをリアルタイムでやり取りするために、高速・大容量・低遅延の通信技術が不可欠です。具体例として以下のようなものが挙げられます。
〇5G(第5世代移動通信システム)
高速・低遅延の通信により、IoT機器や自動運転のリアルタイム制御を実現
〇V2X(Vehicle-to-Everything)通信
車と信号機、歩行者などが通信し、安全な交通を実現
モビリティ技術
モビリティ技術は、人やモノの移動を効率化する技術であり、スマートシティの基盤となります。具体例として以下のようなものが挙げられます。
〇MaaS(Mobility as a Service)
公共交通、シェアサイクル、タクシー、レンタカーを一つのアプリで統合し、
最適な移動ルートを提供
〇電動モビリティ(EV・水素自動車)
環境負荷を低減し、持続可能な交通システムを構築
国内外で進むスマートシティ実現に向けた取り組み5選
静岡県静岡市|ウーブン・シティ(トヨタ自動車株式会社)
トヨタ自動車株式会社は、富士山のふもと静岡県裾野市で実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」を建設しています。その構想を初めて発表したのは2020年1月で、2021年2月から造成工事が始まりました。
Woven Cityでは「幸せの量産」を目指し、新たな技術やサービスの実証・導入に特化した都市を目指します。その時々の研究に合わせて都市そのものの在り方を考え直し、終わりのないまちづくりを進めます。

参考:https://www.woven-city.global/jpn/
栃木県宇都宮市|スーパースマートシティ
宇都宮市が目指す「スーパースマートシティ」とは、ネットワーク型コンパクトシティを土台に、
〇地域共生社会
〇地域経済循環社会
〇脱炭素社会
の3つの社会が、人やデジタルを原動力に発展し、夢や希望がかなうまちのことです。
国内で75年ぶりに開業した新たな路面電車として注目された、宇都宮市を中心に走行するライトライン(LRT)やバスなどの公共交通で観光や産業などの拠点を繋ぎ、どこへでも移動しやすい、暮らしやすいまちづくりを目指します。

参考:https://ssc.city.utsunomiya.lg.jp/
東京都築地市場|IoTスマートゴミ箱「SmaGO」
2024年12月4日より、築地場外市場ではIoTスマートゴミ箱 「SmaGO」が8台導入されました。
近年のインバウンド需要の高まりにより、築地場外市場ではゴミの増加やポイ捨てが増加しています。今回設置された「SmaGO」は、街の美化と環境保全に貢献するとともに、効率的なゴミ回収を目指します。

参考:https://smago.jp/tsukiji20241204/
オランダ・アムステルダム|アムステルダム・スマートシティ・プログラム(ASC)
アムステルダムでは、世界の都市に先行し2009年6月に「アムステルダム・スマートシティ・プログラム(ASC)」を立ち上げ、スマートシティ化のためのプロジェクトが始まりました。世界でどこよりも早く、スマートシティの実現に向けて動き足した地域です。
持続可能なモビリティや公共空間、オフィスなどの構築をテーマに、質の高いエコロジカルな生活と経済成長の両立を目指すものです。それと同時に、「2025年までにCO2排出量を1990年比で40%削減する」という目標も掲げています。
アメリカ・ニューヨーク|2016年ベスト・スマートシティに選出
世界最大級のスマートシティのイベント「Smart City Expo World Congress」において、ニューヨークは2016年にベスト・スマートシティに選ばれました。
ニューヨークでは2012年に制定された「オープンデータ法」に基づき、市民の自由なデータ活用を推奨する「NYC Open Data」や、公衆電話をWi-Fiのホットスポットに置き換えるプロジェクト「LinkNYC」などの取り組みが行われています。
スマートシティの実現のために解決するべき課題
スマートシティ実現に向けた課題:コスト
スマートシティを構築するためには、IoTセンサー、AIシステム、通信インフラ(5G・光ファイバー)などの技術導入が必要であり、それには多額の初期投資がかかります。また、導入後もデータ管理、システム維持、サイバーセキュリティ対策などの運用コストが発生します。高い導入コスト・運用コストがスマートシティの普及を妨げている要因になっているのかもしれません。
その対策として、一度に全ての科学技術を導入するのではなく、都市の規模に合わせて段階的な技術の導入や、自治体と地元企業との連携により必要な費用を分散させることなどが考えられます。
スマートシティ実現に向けた課題:住民の理解
スマートシティの技術導入が進んでも、住民がその利点を理解し、積極的に利用しないと十分な効果が得られません。特に、高齢者やデジタルに不慣れな層にとっては、スマートサービスが難しく感じられ、拒否反応を示すこともあります。また、データの収集・活用に関するプライバシー懸念も大きな課題です。
その対策として、住民向け説明会や実際の技術に触れるワークショップの開催や、徹底したプライバシー保護の実施が求められます。
スマートシティ実現に向けた課題:法制度の未整備
スマートシティでは、新しい技術(自動運転、ドローン、データ活用など)が導入されますが、現行の法律ではそれらの技術が想定されていない場合が多く、規制が障害となることがあります。また、データの所有権や利用ルールが明確でないため、官民間のデータ共有が進みにくい状況もあります。
その対策として、国主導でデータ利用ガイドラインを制定するなど、誰にとっても分かりやすい共通ルールの作成や、国家戦略特区等を活用した地域ごとの規制緩和などが挙げられます。
まとめ
スマートシティは多くのメリットをもたらす一方で、コストや法整備、住民の理解促進などの課題も残されています。これらの課題を克服するためには、行政・企業・市民が協力し、持続可能な取り組みを進めることが不可欠です。今後のさらなる技術革新とともに、スマートシティがどのように発展していくのか、引き続き注目されます。
update: 2025.3.9